ハリエットの謎を追う、ペネロピ・ライブリーさんの本を読んでみました、の巻。 |

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2017年 11月 30日
![]() "I want you to find out who in the family murdered Harriet, and who since then has spent almost forty years trying to drive me insane." from "The Girl with the Dragon Tatoo"(2005)by Stieg Larsson 『君に、家族の中で誰がハリエットを殺したか見つけ出して欲しいのだ、そして、それから40年の長きにわたって、私を狂気に追いやろうとしている人物を。』 はい、いきなりスティーグ・ラーソンの「ドラゴン・タトゥーの女」の引用が出てきちゃいましたが、あの甚だあざとい本の主題は「ハリエットの謎」を追うことでした。今回読んだペネロピ・ライブリーPenelope Livelyさんの「A Stitch in Time」(1976)もハリエットの謎を追うお話です。しかし、なんとまあ、何と違う別世界のお話なんでしょう。(笑) お話の主人公は11歳のマリアです。彼女は一人っ子で、両親の運転する車で、化石の出土などで有名な英国ドーセット州のライム・レジスの町へ、夏休みの休暇に出かけるのです。 マリアはちょっと変わったpeculiar子供です。一言で云えば「人付き合いが悪い」という感じ。両親のことも、シニカルに冷静に見ています。彼女は無生物や動物と会話をします。例えば車の中の灰皿とか、たまたま立ち寄ったガソリン・スタンドの給油機を相手にしてです。 一家はヴィクトリア朝時代の歴史ある建物を借りて、ここで夏の休暇を過ごすのです。ここでも家に住み着いているらしい猫と会話をします。そして、マリアはこの家で不思議な感覚を覚えます。どこからともなく、ブランコの気配と、犬の鳴き声を感じるのです。でも、庭にはブランコなどないし、犬も見かけません。それに他の誰にもそんな音は聞こえないのです。 やがて、この家には100年ほど前に、マリアと同じ年頃のハリエットという女の子がいたことが分かってきます。 家主のお婆さんのところに挨拶に行くと、ハリエットは彼女の母スーザンの姉妹であることが分かりました。アルバムを見ると、マリアと同年代の少女の姿が写っています。しかし、不思議なことに、ハリエットのその後の成長した写真は見当たりません。 また、マントルピースの上に、刺繍のサンプラーが置かれてあり、それは10歳のハリエットが手がけたもので、家と庭のブランコ、それに犬がデザインされていました。さらに、ハリエットは途中までで、スーザンが完成させた、とあります。 ハリエットには何か不幸なことが起こったのでしょうか。この謎を通奏低音として、ライム・レジスの休日の様子が描かれていきます。やがて、隣のホテルに滞在している一家の、同じ年頃のマーチン少年と親しくなり、休日を愉しむようになります。しかし、何故か、あのブランコと犬の気配は消えないのです。 まあ、こんな話なんですが、正直なところ、波瀾万丈の面白さといった類いの本とは対極にあります。冒険小説を求める方は全くお門違いです。超自然的要素はミニマムで、ファンタジー・ジャンルに入れるかどうかも、微妙なところであります。 例えば、この間読んだ、「グリーン・ノウの子供たち」よりも、ずっとファンタジー色は少ないです。 それでは、全然つまらない本かというと、それは違います。著者の筆致は細やかで、主人公マリアの心理描写はとてもリアルに、良く書けています。彼女の性格は自省的です。無生物や猫との会話は、彼女自身の心の声です。その証拠に、猫は彼女の学校の友人のことなども、当然のように知っています。彼女は自分が大人の気に入るような行動をしていないことがよく分かっていますが、それを止めることができません。 彼女はハリエットの謎の真相を知ることで、大人たちとの接し方にも変化が生じます。そして、夏の休暇は終わる。全体として抑えられた、静かなストーリー運びです。この本は邦訳はされていないようですが、まあ、日本でヒットするような本ではないのは確かでしょう。みっちは英国の事物にあまり通じていないので、この本のあちこちに感じられる「英国らしさ」が読んでいて愉しかったです。それにしても、英国の児童文学の「間口の広さ」には、つくづく感心いたします。 記事冒頭の画像は、Kindle版の「A Stitch in Time」表紙です。 A Stitchは刺繍の一針です。100年の時間を越えて、刺繍の一針が、現代のマリアに語りかけてくるのです。
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by mitch_hagane
| 2017-11-30 12:30
| 5.本
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