フィリップ・プルマン氏の「ローズ・フィールド」を総括する、少年少女向けの冒険小説は、少なくともプルマン氏にとっては、すべてが終わったと思えます、の巻。 |

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2026年 01月 02日
![]() 新三部作、ことにその最終巻である「ローズ・フィールド」は少年少女向け冒険小説ではありません。では大人向けの本なのか、いやそもそもが、冒険活劇ではすでにない、ということなのです。少なくとも前作「秘密のコモンウェルス」(2019年)までは、この新三部作が冒険活劇で終わる可能性が、まだ残っていたように思います。しかし、この最終巻「ローズ・フィールド」(2025年)に至るまでの現実の6年間の世界の様相とその進展、それらからプルマンさんが被った影響が、この可能性を奪ったとみっちは見ています。 「ローズ・フィールド」の結末で、ライラはもう世界を改変・救済する意欲を失っています、ただイマジネーションを大事に人に伝えていきたいと願っているだけです。それはプルマン氏自身の姿でもあると思います。旧三部作の末尾ではどうだったでしょう、ライラは理想の王国を築こうとしていました、それが新三部作では、ただイマジネーションの語り部でありたいと望むだけなのです。 「秘密のコモンウェルス」と「ローズ・フィールド」の中心となるテーマは、まぎれもなくイマジネーションです。ライラは成長の過程でこれを失い、そのためにダエモンのパンはライラと別れて旅に出ます。子供時代の無邪気さを失います、それは現実世界、我々の現実世界と共鳴した、自由に敵対する者たちの台頭から、明確に頷けるのです。宗教が、企業が、政府の政策決定に介入してきます、官僚の権力が肥大化し、権威主義が台頭し、かっての共同体は分断されます。 「山から来た者たち men from the mountains」は狂信者たちのようだが、何であるか、最後まで明確な説明はありません、彼らはなぜ国際企業である「TP Thuringia Potash」と結びついているのか、語られません。主要な敵方である「マジステリウム Magisterium」にしてもそう、巻末に至っても、これら世界を害している(と思われる)敵対勢力は滅びた気配はないのです。 そして「カラマカン砂漠 desert of Karamakan」(実在しません)にある問題の「赤い建物 the red building」に辿り着いてみると、そこは確かに異世界への窓であり、不思議のバラとバラ油を生み出す源泉でしたが、理想郷とはほど遠く、得体のしれない金moneyへの執着・果てなき追求が、住民たちの生活とメンタルを蝕んでいるのです。そこは理想の地ではなかったし、回復の気配はあるが、まだこれからということになります。エンディングとして、中途半端な感は否めない。 特に今作「ローズ・フィールド」における特徴は、「ドラマトゥルギーの崩壊」なのです。まぁ主題はともあれ、ストーリー・テリングの愉しさだけで、読者を引っ張っていくというのは、娯楽小説の場合十分あり得ることです。しかし、今作において、それはない。また未解決の問題(loose end)が多すぎるという欠点が否めません 例えば、ムスタファ・ベイの後継者Tamar Sharadzeはたいへん魅力的な女性で、彼の偉大な遺産を受け継いでいます、そしてあの美貌という点でも、その能力という点でも、かのコールター夫人に勝るとも劣らぬ新キャラクター、Leila Pervaniが現れて彼女と会話をするのです。この2人の会話は大変意味深で興味深いのですが、話の本筋には少しも関係しません。ストーリーとしては、どこへも繋がらないのです。 また、ライラを狙う不倶戴天の敵は、突如彼女の親族であったことが明らかになります。まぁデラメアがライラの伯父であることは、「秘密のコモンウェルス」のときから示されていましたが、今回の新たな暴露は驚きです。まぁ、「スターウォーズ 帝国の逆襲The Empire Strikes Back」で、ダースベーダーが明らかにした、「I am your father.」に匹敵する暴露であります。(笑)また同時に、あれほど前三部作で輝いていたコールター夫人の倫理的スタンスが大きく揺らいだのは間違いないです。 マルコムとライラが、グリフォンのグルヤGulyaを助けて、魔法使いのソラーシュを倒すエピソードは愉しいのですが、これとて本筋の展開に必須のものかどうかは、かなり微妙です。これはむろん「神話の再話 Myth Retelling」になっており、その神話とは架空の叙事詩「ヤハンとラクサーナ」なんですが、ずばり云えば、「あまり膨らんでいない」という感じがいたします。 ドラマトゥルギーの崩壊は予定の行動ではないか、という疑問があります。これほど、プロットに隙があるというか、すべてが語られず、すべてが解決されず、すべてが中途半端のままです、それはないんじゃないか、どうもそうなることが想定範囲内なのではないか、そんな考えが浮かびます。 前三部作で、決定的な役割を果たしたアレシオメーターは、今回はあまり重要な役割を担わなかったです。それはまぁ良いとしても、それに替わるかと思われたミリオラマの物語カードは、どうももう一つパッとしなかった感じがいたします。そして、「秘密のコモンウェルス」で登場し、今回の最終巻で何らかの役割を果たすと予想されたキャラクターが登場すらしないのも、どうなんでしょうか。(例えばライラの邪悪な祖母) まとめ: これはどうしても書いておかねばなりませんが、みっちは「ローズ・フィールド」を非常に愉しんで読了しました。そこについては、まったく不満はないのです。そして、イマジネーションの喪失、権威主義、断絶、分断、貪欲、疎外感、社会の崩壊と衰退、老いの懸念、冷酷なコーポラティズム、官僚権力、すべて現代的な脅威というものが、古典的なジュブナイル物語(Juvenile)をもはや許さないのだな、という点を痛感いたしました。 最後に一つ訂正の情報を、プルマン氏は今回この「ローズ・フィールド」を書くに当たって、初めて手書きではなく、ラップトップ(ノートパソコン)を用いたそうです。それは年齢とCOVID-19パンデミックの影響のようですが、手書きはもう耐え難いほど苦痛になったらしいのです。 記事冒頭の画像は、本文とは関係なく、春日大社の鼉太鼓(だだいこ)です。難しい漢字です。屋外の舞楽演奏に用いる左右一対の太鼓です、大陸文化からの影響を強く感じます。
by mitch_hagane
| 2026-01-02 13:02
| 5.本
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