カラヤン本を読んで気になったところをChatGPTで検索してみます、の巻。

リチャード・オズボーンの「ヘルベルト・フォン・カラヤン」、木村博江（訳）、白水社刊、（2001年）を読んだ話は前に書いています。

今日はこの本をネタに、最近のネットを利用した検索の現状を書いてみたいと思います。というのは、例の生成AI、ChatGPTの能力が非常に上がっていますので、これを利用しない手はないからです。

むろん、まだまだChatGPTの能力は限られています。かなりの確率で、『ウソをつく』（笑）のは以前と変わっていません。ChatGPTを積極的に検索に利用するのには、「かならず確かな典拠で裏を取る」ことが必須です。どういうことか、まぁ具体的な例で行きましょう。

まず検索のネタですが、これはどうでしょう、同書にはカラヤンとフルトヴェングラーとの確執のことが多く書かれています。その中で、1951年7月、戦後バイロイトの再開時、フルトヴェングラーは開幕を記念するベートーヴェン交響曲第九番を指揮します。むろん、超有名な演奏なのですが、ここで同書には、こんな記載があります。

『だがレッグの気分も今回は険悪だった。開幕を記念してベートーヴェンの交響曲第九番が演奏されたあと、フルトヴェングラーの楽屋に姿を見せた彼は、「良い演奏でしたが、期待ほどではありませんでしたね」と言ってのけたのである。

急所に受けたこの痛烈な一撃から立ち直るまで、フルトヴェングラーはまる四十八時間悶々としたのだった。』同書（上巻）pp.445

まぁ、当時のレッグとカラヤンとの関係を考慮すれば、レッグがそういう言動をするのも、理解できなくはないですが、はたしてこのエピソードに確かな典拠はあるのでしょうか。同書には脚注があって、それには、『エリザベート・フルトヴェングラーとのインタビュー。』とあるだけです。

ではここで、ChatGPTに検索させてみます。上記の条件をすべてChatGPTに教え、エリザベート・フルトヴェングラーのインタビュー記録がないか、ネットを検索させます。すぐにトーマス・フォイトさんの公式サイトを挙げてきました。これです。該当部分を引用します。

『Zum Beispiel nach der Wiedereröffnung der Bayreuther Festspiele mit Beethovens Neunter unter Furtwängler im Juli 1951. Legge zeichnete das Konzert für Columbia auf, wenige Tage später auch die Produktion der Meistersinger unter Karajan. „Gleich nach dem Konzert“, berichtete Elisabeth Furtwängler, „kam Legge ins Künstlerzimmer. Und da ist man als Künstler ja noch völlig verletztlich. Und Legge sagte dem Wilhelm ins Gesicht: ‚Na, das habe ich von Ihnen schon wesentlich besser gehört, Herr Doktor!‘ – Das hat so gesessen, dass Wilhelm abends nicht einschlafen konnte und sagte: Paß auf, da ist irgendetwas im Gange beim Legge, da steckt was dahinter!“ (E. Furtwängler 1998).』

みっち訳はこんなところ。

『

例えば、バイロイト祝祭の再開のときのことです、これは1951年7月のフルトヴェングラーの指揮でベートーヴェンの第九だったのですが、レッグはコロンビアのためにそのコンサートを録音しました、その後数日してカラヤンの指揮でマイスタージンガー公演も録音しています。

「コンサートのすぐあとに、」とエリザベート・フルトヴェングラーは語ります。「レッグが楽屋にやってきました。そいういうときアーティストは、とても無防備な状態にあるものなんです。そしてレッグはヴィルヘルムに面と向かってこう云ったのです、《さあて、私はあなたがもっとうまく演奏したのを聴いたことがありますよ、ドクター！》それはあまりに重い言葉だったので、ヴィルヘルムはその夜は眠ることができず、こう云いました、《気をつけろ、レッグに何かが起きている、何か背後にある！》」（エリザベート・フルトヴェングラー　1998年）

』

なお同記事の末尾には、『E. Furtwängler 1998

Elisabeth Furtwängler im Gespräch mit Thomas Voigt, Clarens 1998 Auszüge veröffentlicht in: Fono Forum 3.1999 』とあり、これがトーマス・フォイト自身が1998年にスイス・クラレンスでエリザベートと会話したものであることが示されています。

てなことで、無事オリジナルソースまで辿り着きました。その評価ですが、ChatGPTなかなかです。みっちが自分でGoogle検索を行ったとしますと、たぶんこのソースを発見できたと思いますが、時間を要したでしょう。ChatGPTはほぼ瞬時に答えを出します。ただ、こちらが必要とするデータを引き出すまでには、3回ほど質問を重ねています。単純に聞いただけでは、望むような答えはでません。また回答の真偽を確かめる手間が掛かります。（笑）

はい、今日はそういうところでした。

なお、トーマス・フォイトは、みっち過去記事でマルタ・メードルの自伝を以前紹介しましたが、あのときの対談相手その人です。