「北極の秘島」 、原著者:ウラジミール・オーブルチェフ、訳者:工藤精一郎、講談社 少年少女世界科学冒険全集30、1957年刊、原著は1926年刊です。記事冒頭の画像は、邦訳書のカバーです。この裏カバーにキリル文字で、Земля Санниковаと書かれているとおり、原題は「サンニコフ島」です。そして、これはですね、原著の忠実な訳ではありません、というか、まるっきり大胆な翻案ものだと思います。この頃の少年少女向け図書ですと、抄訳というのは「常識」かなぁ、とは思いますが、これはレベルが違います。この本は古本で稀少だし、あっても5,000円以上でしょう。ちょっと買う気はしないなぁ、図書館というと、国会図書館まで行かないといけません、そんなわけで実際に見て確かめてはいませんが、おそらく翻案も翻案、大翻案、というか、原著にヒントを得て、まるっきり創作したというのに近いのではないでしょうか。(笑)
ここに邦訳書の第1ページが載っているんですけど、こんなシーンははなから原著にはない。(笑)
主人公は13歳のニキータとなっているのですが、原著ではニキータは大人のハンターです。
そもそも
サンニコフ島というのは、シベリアの北、北極海に実在が噂された島の名で、オーブルチェフ自身も実在を信じていたらしいです。オーブルチェフはただのSF作家というわけでなく、地質学者だったんですね。それで原著の冒頭部分は、サンニコフ島に関する当時の(戦前の)状況を延々と説明します。フォン・トル男爵による探検の経緯なども詳しく述べられます。フォン・トルは実在の人物です、1901-02年にサンニコフ島の探検に出発し、そのまま行方不明となりました。原著では冒頭フォン・トル男爵の一行の悲劇を悼むシーンから始まるのです。
「北極の秘島」の惹句は、こんな具合らしいです。孫引きなので細部は異同がありえます。
<雪と氷にとざされた北極に、花さく緑の楽園がある。>
北極に楽園があると信じた探検隊は、極地にむかった。
少年ニキータもとくに頼んで、その中に加えてもらった。
苦しい暴風の中を越えていくと、見た事もない不思議な動物や人間にあい。
色々の冒険が続けられていくという興味ある冒険物語。・・・・巻末広告より
みっちが小学校低学年であった(笑、半世紀前です)ときに、読んだこの本「北極の秘島」のクライマックスでは、主人公ニキータは、失われた部族オンキロンの娘と親しくなります。そして、部族のシャーマン(魔術師)が迷信に囚われて、彼女を殺したのを見て、ライフルでシャーマンを射殺して、恨みを晴らします。最後は、火山の爆発だったか、夢の楽園サンニコフ島は崩壊して終わり、というもの。半世紀前の記憶なので、相当に怪しいですが。
原著の英語版は
ここで読むことが出来ますが、主人公ニキータはさっきも書いたように立派な大人です。オンキロンの部落を発見した一行は「白い魔術師」と呼ばれ、それぞれ現地妻を充てがわれます。ニキータの相手はラクー(邦訳では別の名前になっていたような気がします)、ラクーはシャーマンに残酷なやり方で溺死させられ、ニキータがシャーマンを射って復讐するのは同じです。
てなところが、今回思い出した懐かしい本でした。当時は貸本屋で借りて読んだと思います。あのシーンを読んだときのショックは、未だにはっきりと覚えています。最近は数日前のことでも、簡単に忘れちゃうのにね。(爆)人間の記憶って、そんなものなのでしょう。
今日は以上です。
おまけ:
講談社 少年少女世界科学冒険全集については、次の過去記事でも扱っています。