アシモフ「ファウンデーション」の早川書房ハヤカワ文庫版の邦訳に不満が多いようです、の巻 |
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2021年 06月 16日
アマゾンのコメントには、わざわざ参照ページまで挙げて翻訳がよくないと云われている方がいます。ちょっとこれをネタに検討してみましょう。例1と例2です。 例1: 同書pp.340『今や、辺境の支配者で、ファウンデーションの司祭を自分の領土に入れるくらいなら、自分の喉を掻き切ったほうがましだと思わないやつは一人もいないぞ。』 はぁーっ、なるほどね。二重否定ですね。まぁ、確かに分かりにくいかも。 原文は、こうです。 There isn't a ruler in the Periphery now that wouldn't sooner cut his own throat than let a priest of the Foundation enter the territory. 原文も二重否定です、つまりそのまま直訳なんですね。じゃあどう訳したらいいんだ、ということですが、二重否定をやめるしかないでしょう。 『辺境の支配者は今や、ファウンデーションの司祭を領土に入れるくらいなら、すぐさま自分の喉を掻き切るぜ。』 例2: pp.341『「いいだろ?」冷たい答えが返った。「それがきみの仕事じゃなかったかね、売買するのが?」「利益がある場合にかぎる」マロウも平然と答えた。「今あげている利益以上のものを提供できるのか?」「貿易の利益の半分ではなくて、四分の三を取ってもよい」マロウはちょっと笑った。「立派な提案だ。あんたの条件で商売したら、その利益を全部投げ出しても、今のぼくの取り分の十分の一にもならないよ。もうちょっと奮発するんだな」』 これは確かに意味が取りにくいですね。原文はこうです。 "Why not?" came the cold response. "Isn't that your business, buying and selling?" "Only at a profit," said Mallow, unoffended. "Can you offer me more than I'm getting as is?" "You could have three-quarters of your trade profits, rather than half." Mallow laughed shortly, "A fine offer. The whole of the trade on your terms would fall far below - a tenth share on mine. Try harder than that." みっちの訳: 『立派な提案だ。あんたの条件でやれば、貿易の総額ははるか下に落ちてしまうだろう、ぼくの取り分は今の十分の一ってところだ。もうちょっと奮発するんだな』 確かに、岡部さんの翻訳は少し問題があるかも。厚木さんはどう訳していたのか、知りたいところです。 他にみっちが気になった部分も挙げてみましょう。 例3: pp.316『でなければ、現在のここの慈悲深い太守の仲間に入るかー慈悲深いといっても、殺人、略奪、強奪、そして少年皇帝という言葉(なぜなら、正当にも暗殺されてしまったから)などの理由でそう呼ばれるのだがね』 どうでしょう、意味が取りにくいですね。原文はこう。 Or you could join our present gracious viceroy - gracious by right of murder, pillage, rapine, and the word of a boy Emperor, since rightfully assassinated. みっち訳です。 『それとも、いまのここの慈悲深き太守に仕えるかだー慈悲深いというのは殺人、略奪、強奪の権利によってそうなのだし、また少年皇帝の言葉にも依るのだ、彼が正当に暗殺されてからはね』 例4: pp.317『「違う、違う。わたしは政治を超越している」「政治を超越している?人間が政治を超越するなんて、できますか?」』 原文です。 "No, no. I am past politics." "Past politics? Is a man ever past that? " みっち訳。 『「違う、違う。わたしは過去の政治だ」「過去の政治?人は過去のものになったりしますか?」』 「超越」ってのはちょっとない感じがいたします。「past politics」はこんな言い回しにも使われます。「歴史は過去の政治である、そして政治は今の歴史を表すHistory is past politics and politics present history」(Sir John Seeley) 例5: これは過去記事のコメントに書いたものの再録です。 「ファウンデーションの誕生(下巻)」のラストのところ。 pp.343 『ハリ・セルダンは生けるがままに、この世を去ったといわれている。なぜなら、かれは自らの創造した未来を、わが身の周囲一面に繰り広げて死んだのだから』 ラストの文は肝心なところなので、この訳ではちょっとねぇ。 原文はこうです。 It has been said that Hari Seldon left this life as he lived it, for he died with the future he created unfolding all around him. みっち訳はこう。 「ハリ・セルダンは、彼が作り出した未来に囲まれて死んだ、と云われている。」 「left this life as he lived it」は「生けるがままに、この世を去った」というような奇天烈なものではなく、よく追悼文Obituaryなんかに「彼は気高い人生を終えたHe left this life as he lived it, with dignity」とかある、決まり文句です。 さて、今日は人様の邦訳にさんざんケチをつけて、申し訳ありませんでした。それで、みっち的感想なんですけど、まぁ確かに部分的には色々あるのですが、アシモフの小説の雰囲気を知るのには、さほど問題はないような気もします。ミステリーやSFの邦訳は、細かな点にこだわれば、何かしら問題のあるものが多いですから。 以上
by mitch_hagane
| 2021-06-16 14:45
| 5.本
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