前回、前々回の記事で、スウィトナー指揮「魔笛」のピッチについて、色々書きました。そうなると『他の「魔笛」はどーなんだろう?』という疑問が当然浮かんでまいります、の巻。 |
さらにコメント欄における如月さんの電源事情についてのお話も大変興味深いものでした。
それにしても録音物のピッチをあれこれ問題にするのは日本人だけなのでしょうか。欧米のクラシックファンはこういうことに案外アバウトなのかもしれません。そもそも日常的に聞いたり演奏したりしている音楽も、意外とピッチはおおまかなのかも。
記事では、分かりやすさを優先して、簡単に書いているのですが、実際のところは、細かな問題があります。まず、オーケストラのチューニング自体が、それほど正確厳密なものではない、という点です。ラ4音(A4)の440Hzで合わせるというのが有名ですけど、別に全世界統一というわけではないようだし、今のオケでは、A4を442Hzに合わせるのが主流とのこと。さらに、一説ではカラヤンは446Hzでやっていたとか。(実測した人がいたらしい−笑)
ちなみに、上の記事で書いたアバドとカラヤンのデジタル録音「魔笛」の和音周波数は、それぞれ、626.0Hz、632.3Hz、これを基準の622.254Hzで割って、ラ4音の周波数を出すと、約443Hz、447Hz、となります。あっ、やっぱりカラヤンのピッチは高い。(笑)
まぁ、あまり気にしても仕方がないのかもしれません。ただ、オペラの場合は歌手の高域限界が律速するので、むやみにピッチを上げることはできないそうです。スウィトナーEurodisk盤は640.8Hzで、これだとラ4音は453Hzとなって、やっぱりちょっと高すぎるなぁ、というところです。
あと、本文中にも書いたように、古楽器使用のオケでは、チューニングが低めになっているようですね。ヤーコブス盤では、約430Hzとなります。
前記事でお示しのごとく、台詞のトラックで、海外BMG盤のレヴェルが異常に高く、怒鳴りあっているように聞こえた、その抵抗感が、「コトの始まり」でした ― ので、ピッチに対する「耳の鋭敏」ではないのでありま~す(汗;;)。
> …録音物のピッチをあれこれ問題にするのは日本人だけなのでしょうか。 by ネコパパさん
既知の例ですが、ムラヴィンスキーのショスタコーヴィチ:8番の件は、海外でも問題視され、英Regs盤は、W. Mark Roberts氏の、こちら:
https://dschjournal.com/cd-reviews-11#opus065
のレビューに示唆されてピッチ修正した、とブックレットにあります。
演奏そのもののピッチ設定は、古楽器のCDでは、書いてあるものが多くなりましたね。
最近は安価なツールが豊富に入手可能で、素人でもいろいろな解析が可能になりました。DENONのリマスタリングはなかなか行き届いており、ピッチの問題以外にも、①セリフ部分のレベルを下げる、②ダイナミックレンジを大きくする、③周波数特性では1万Hz以上のレベルを上げる、など細かなチューニングがされています。全体として、よりオーディオマニアックなリマスタリングである、と云えるでしょう。
これでEurodisc盤のピッチが高いのは分かったのですが、ではどうするか?まぁDENON盤を求める(笑)のがよいでしょうが、オーディオ編集ソフトを持っておれば、「タイム・ストレッチング」機能(ないしはそれに類する機能)が付いていると思うので、これで簡単に調整できるはずです。何でも可能な時代になりました。