追記があります
はい、今日はクロード・ドビュッシーの前奏曲24曲から、第1巻第10曲「沈める寺」La cathédrale engloutiを取り上げます。ほぉ、フランスものとは、珍しいねぇ。そうです、この曲を聴く気になったのは、朋友パスピエさんのこの記事に依ります。まずは、ご覧ください。
作曲のベースとなったらしい「都市イスの伝説」については、ウィキペディアの
この記事を見ていただくことにしましょう。
手短に云ってしまえば、驕慢のゆえに水の底に沈んだイスという都市の伝説です。グラドロンという王と、その娘ダユー(彼女が享楽と背徳にふける)、そして改悛を促す聖ゲノルなどが登場します。
さて、まずはイヴァン・モラヴェッツ(1930-2015)の演奏の話から。
これは、最初アメリカのConnoisseur Societyレーベルで発売されたもの(CS 1866、1967年)その後、国内盤はフィリップスから出ています。(SFX-7655)
フィリップスからは、4トラックのオープンリール・テープでも発売されたようですね。(PRT4001)あと、これはみっちも見たことがあるのですが、フィリップスから「フィリップス・オーディオ・クリニック・シリーズ」のレコードとして曲数を5曲に絞ったバージョンが発売されています。これはジャケットに楽曲の振幅データが印刷されておりました。(1978年)
録音データは不詳ですが、ピアノはBaldwin SD-10 Concert Grandとなっています。Baldwinはアメリカのピアノ・メーカーなんですけど、あまり聞かないです。ウィキペディアの情報では、最近はアメリカでの製造は止めて、中国で作られているとのこと。
さて、このモラヴェッツ盤のデータを取ってみました。
Replay Gain 2.1dB
Peak 0.821
Dynamic Range 24.5dB
DR 10
なお、これらの値の定義などは、過去記事を参照ください。
比較対象として、最近のアルバムからデータを取ってみます。
エレーヌ・グリモーのピアノで、同じ曲、こんな感じです。(2014年録音)
Replay Gain 2.5dB
Peak 0.998
Dynamic Range 25.0dB
DR 15
これは彼女のアルバム「Water」に収録されたもの、詳細はここを見てください。
はい、それでみっち的感想です。演奏についてではなく、あくまで音質の評価です。
①モラヴェッツ盤のダイナミックレンジは広く、最新のグリモー盤と大差ないです。当時のLPレコードとしては、出色のレンジだと思います。ただダイナミックレンジが広いということは、それだけ一般家庭では「再生しにくい」ということです。モラヴェッツ盤は聴感上グリモー盤より強音が持続するので、なおさらです。
②さらにモラヴェッツ盤の最強音部では、やや音が飽和気味です。グリモー盤の抜けるような軽やかさ・澄み切った音はありません。グリモーはスタインウェイを弾いていると思うので、その差もあると思います。
③念のため、モラヴェッツ盤とグリモー盤のスペクトログラムを取って比較しましたので、見てください。上がモラヴェッツ盤、下がグリモー盤です。左チャンネル同士を比べてみました。スペクトログラムで見ると、グリモー盤の音量の振幅の変動が大きいこと、また周波数成分で高音域への分布が多いことが目につきます。ソフトはiZotope RX7です。
なお、ここでは載せていませんが、FFT分析では、モラヴェッツ盤は22kHzまでなだらかに伸びています。グリモー盤はレッドブックのCDですから、22kHzで急峻に切れています。ただし、楽器はピアノですので、その倍音は20kHzまで伸びてはおりません、念のため。
以下追記です
スペクトログラムの見方ですが、念のため。
横軸は時間です、どちらも6分半ほどの長さです。
青のグラフに対応するのが、右端の単位欄で、一番左の-0~-∞~+0dBです。デジタル録音ですので、0dBを超えることはありません。
オレンジは、周波数の分布を示します。対応するのは、同じく単位欄のまん中の0~100~20kHzです。オレンジ色が明るく強く輝いているところでは、その周波数域の量が多いことを示します。この色が何dBに相当するかは、単位欄右端のカラー・チャートに示されています。
ピアノですので、高い周波数成分はそれほど多くないのですが、下のグリモー盤の方が明らかに高い周波数成分が多くなっています。また、モラヴェッツ盤では低域が分厚いのが見て取れると思います。
以上追記終わり
記事冒頭の画像は、E. V. リュミネという人の筆になる『娘を捨てよと王に求める聖ゲノル』です。白馬に乗るグラドロン王が、娘のダユーを海に突き落としています。したがって、もう一人の馬上の人物は聖ゲノルなんでしょうなぁ。よく見ると、光輪(haloないしnimbus)があります。(笑)