(さらに追記があります。2017/08/06)
(追記があります)
なかなか面白いテーマなので、みっちが少し調べた結果をまとめてみました。
1960年代末期から70年代にかけて、ビートルズBEATLESは云うまでもなく、ビッグ・ネームでありました。みっちも、この頃は、ビートルズ解散の報に心を痛め(笑)、英国Parlophone盤で初期のLPを買い直して、国内盤とあまりに音が違う(新鮮な音がしました)のに一驚、さらに米国Capitol盤を買ってみると、その雑な作りにこれまた一驚(1cmくらい反ってるのもありました-笑)、いやぁオーディオ的にはいい経験をいたしました。
さて、そのビートルズのLP製作でも有名になったアビーロード・スタジオですが、ここにEMIが自前のモニター・スピーカーを入れていたといいます。(ほぉ)
人呼んでアビーロード・スタジオ・モニター・スピーカーAbbey Road Studio Monitor Speakersとな。
それはいったいどんなものだったのか、調べて見よう、というのが今日の話題です。
はい、まずそのスピーカーの写真です。
EMI REDD.36 「COLUMN」(柱)という名前のスタジオ・モニター・スピーカーです。 設計者はPeter Dixであるといい、REDDの送り出した製品群の一つです。
REDD(Record Engineering Development Department録音技術開発部)はEMIの部門名称。アビーロード・スタジオの機器類を開発したことで有名で、REDD.1は最初のステレオ・ミキシング・コンソール、REDD.37はSiemensV72を使った管球式ミキシング・コンソールです。
実はこの写真はREDD.36そのものではなく、ほぼ同型(と思われる)のEMI DLS-1です。(と書きましたが、実はREDD.36そのもの、かもしれません-笑、あとの追記を見てください)
DLS-1はアメリカでのみ販売された、REDD.36の市販版です。DLS-1は、REDD.36とは細かな点で仕様が異なると思われますが、詳細はよく分かりません。(汗)
総重量110ポンド(約50kg)のトール・ボーイ型で、移動の便を図って、底にはキャスターが付いています。
トゥイーター2、ウーファー1の構成で、筐体の下部に管球式アンプSTD.373型(出力25W EL34使用「Leak TL 25 plus」をEMIでモディファイしたものとのこと)が組み込まれています。
1956年-64年製造、製造総台数はおそらく100数十台で、お値段は...プレミアが付いています。(汗)
なお、"Recording the Beatles : The Studio Equipment and Techniques Used to Create Their Classic Albums"という本に、アビーロード・スタジオに置かれたこのスピーカーの写真が載っているそうです。中古でも大変高価な本なので、買えませんが。(笑)
もっとも、このスピーカーは、上品な音だったが、「パンチには欠ける」ということで、ビートルズはAltecの同軸モニター(例の銀箱でしょう)を使ったそうです。まあ、そうでしょうなぁ。
以下追記です。
DLS-1(REDD.36)の情報を追記しておきます。
高さ50インチ(127cm)x幅14インチ(35.6cm)x奥行き17インチ(43.2cm)
ウーファーは13インチx9インチ楕円スピーカー、EMI 92390G(アルニコ磁石)x1
トゥイーターはGEC(The General Electric Co. Ltd of England) BCS1853 Hi-Flux Presence Unit x2
このトゥイーターは、BBCのモニターLS3/1にも使われたRola-Celestion HF1300トゥイーターの先祖だと思われます。(LS3/1もHF1300を2本使っていました)
トゥイーター2本は、エンクロージャー内にさらに独立した小さな区画をもうけて収納されています。この写真で、楕円スピーカーの上に見える小区画がそれです。この中に、2本のトゥイーターが縦に並んで配置されています。
小区画の中がこれ。
なお、エンクロージャーは密閉式で、バスレフポートはありません。クロスオーバー・ネットワークはエンクロージャー内部に入っていますが、管球式アンプは、エンクロージャーの底部にあり、スピーカー用の気室の外です。
さらに、DLSの構造の特徴として、エンクロージャーが合板ではなく、1インチx1インチx17インチのウッド・ブロックを接着剤で繋いだ板を使っているとのこと。もちろん、表面には化粧板が貼られているので分かりませんが。
さらに、DLS-1のグリルネットの右上には、EMIの地球儀をかたどった大きなバッジが、こんな具合に付いていたようです。これはREDD.36にはない模様。
してみると、本記事上の写真は、本当はREDD.36なのかもしれませんねぇ。う~ん、これだから、ヴィンテージものの記事は書きにくいなぁ。(汗)
ネット上にはいろいろな記事があるのですが、真偽を確かめるのが難しいのです。一説には、REDD.36の管球式アンプはLeak TL/25 plusで、DLS-1のそれはEMI STD.373であるとなっています。これまた未確認情報です。
さらに、さらに、これはアビーロード・スタジオにおけるビートルズのメンバーなんですが、右のジョージ・ハリスンの後ろのモニター・スピーカーはAltecの銀箱ですね。(中身のユニットは605Aなんだそうで、詳しく調べている人がいるもんです)
そして、左のリンゴ・スターの後ろにあるのが、REDD.36と推定いたします。(笑)
以上追記終わり。
さらに追記があります。2017/08/06
アビーロード・スタジオ・モニター・スピーカーの設計者Peter Dixについての追加情報です。
ソースはこれでして、
当時EMIに勤めていたRussellとBrian_Gのやりとりが記録されています。
関係する部分のみ抄訳します。
『ピーター・ディックス(Goodmans Loudspeakersから来た人です)がこのラボで一緒に働いていました、ここでわれわれはアビーロードのスタジオ群用にモニター・スピーカーを作ったのです。それはリークのTL10アンプで駆動され、特別なフィードバックを持っていて、個々のキャビネットについてフラットなレスポンスとなるよう補正されていました。
...中略...
REDDはレン・ペイジの肝いりで1955/56年に設立され、その目的はEMIのスタジオ群内で使うステレオ録音機器の開発でした。最初のREDD製品の一つはREDD17(1956年)です、これはEMIとドイツのElectrolaとの協力で開発され、Siemens-Halske V72のアンプが使われていました。』
今までの情報と少し異なる点もありますが、まあ、こんなものでしょう。(笑)
モニター・スピーカーに専用のアンプを内蔵させているので、このアンプを使ってイコライジングも行っているようですね。考えてみれば、当然のことかと思います。
以上さらに追記終わり
はい、ということでアビーロード・スタジオ・モニター・スピーカーの話はおしまいなのですが、もう一つ話題を。
実は、このモニター・スピーカーのディフュージョン・モデルというか、民生用にもっとシンプルで廉価なモデルが存在しました。
EMI DLS 529というブックシェルフ型のスピーカーです。
写真はこれ。
1964年当時のカタログがここにあります。
EMI DLS-529は159ドル(もちろん1本)とあり、同じページのKLHの2ウェイが224ドルしているところをみると、そんなにハイエンドの商品とは思えません。
周波数レンジが40-15,000サイクルとなっておりますね。
Scope Electronics Corp.というところが、アメリカの総代理店で、「Dangerous」なんてキャッチフレーズで売っていたようです。
なお、英国内では、EMI 9206というほぼ同等の製品が売られていました。これはブックシェルフ型ではなく、脚の付いたフロアー型となっており、トゥイーター2本が水平に配置されています。DLS 529はトゥイーター2本が縦に並んでいますので、区別がつきます。
本来のアビーロード・スタジオ・モニターとは、外観と使用ユニットが似ている(ただしトゥイーターは異なります)以外は、別物なんですが、当時からどうも一部のオーディオ・フリークの間では、非公式なセールス・トークとして、「アビーロード・スタジオ・モニター」という呼称が使われていたらしいです。
記事冒頭の画像は、アビーロードの例の横断歩道の「今」です。ソースはウィキペディアです。