今回対象とするのは、第2グループ:ウィーン円熟期は、K376、K377、K378、K379、K380の5曲、いずれもモーツァルトがウィーンに居を定めてからの作品です。
それと、第3グループ:ウィーン晩年におけるK454、K481、K526の3曲、いずれもモーツァルトの才能が最高潮に達した時期の作品、これもこの際一緒に行っちゃいましょう。(笑)
いつもと同じように、この8曲を作曲順に並べています。ケッヘル番号順とは少し異なるのです。
ケッヘル番号、調性、作曲時期、場所の他に、曲の特徴というか、みっちの印象を付け加えてあります。今回の第2、第3グループは、第1グループに比べると、完成度が上がり、複雑さを増しています。3楽章構成なので、印象は2字熟語を3つ並べてみました。それぞれ各楽章に対応しているつもりです。ですが、みっちのヴォキャブラリーが如何に貧弱か、よく分かりました。(笑)まあ、ご笑覧ください。
それでは、推奨盤のご紹介を。前回と同じく、女性ヴァイオリニストの盤が主体です。それは、みっちが○好きであると云うこともありますが(汗)、女性ヴァイオリニストの盤は、軒並み録音年代が新しいものばかりである、ということが効いていると思われます。
小編成の曲、それがピアノ1台とヴァイオリン1挺だけの、ヴァイオリン・ソナタであっても、なかなかステレオ装置での再生は容易ではありません。特に問題はヴァイオリンです。みっちは、ヴァイオリンの高いところの音が非常に気になります。
古い録音のものは、音に芯がなく、まろやかに過ぎると感じられるものがあります。実演で聴くヴァイオリンはもう少し刺激的な要素が含まれていると感じます。
さて、それでは推奨盤のご紹介を。
K378変ロ長調
最初のこの曲、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの中で、随一の人気曲といってよいでしょう。この手のジャンルに馴染みの薄い人でも、どこかで聴いた覚えのある曲のはず。
選ぶ盤は定番中の定番、アルテュール・グリュミオー(Vn)とクララ・ハスキル(P)盤です。1958年10月、スイスはバーゼルにおけるステレオ録音、もちろん前述の問題点の例外ではないですが、この場合は、まあ許しましょう。(笑)
グリュミオーは、晩年にワルター・クリーン(P)と組んで、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを再録音しています。1981-84年録音のPhilips盤です。これはデジタル録音なので、1958年盤とは異なり、格段に明晰な音です。ただ、ピアノの音がシャープに前に出すぎて、みっちには聴きずらいし、さらに敢えて云えば、グリュミオーのヴァイオリンの音に冴えが感じられません。ここは、旧盤を採りましょう。
K379ト長調
これは凄い曲だと思います。みっち個人的にはベスト・ワンです。
作曲時のエピソードが珍しく残っています。モーツァルト自身が父親への手紙の中で、「ゆうべの11時から真夜中(12時)にかけて作曲した」と語っているんですね。この曲をたった1時間で書き上げるとは、流石モーツァルトです。もっとも、書いたのはヴァイオリンのパートだけです。ピアノ・パートは自分で弾きますから、「暗記しておきました」と。(笑)
アリーナ・イブラギモヴァ盤を採ります。冒頭から、何という表情の付け方でしょう。ぞくっといたします。(笑)
曲は各楽章とも変化に富み、間然するところがありません。アリーナのVnは冴えわたり、セドリック・ティベルギアンのピアノも絶妙です。
K376ヘ長調
なぜか、このK376と次のK377は、ヘ長調で同じ調性の曲が続くことになります。これは異例ですね。ただ、曲の雰囲気は対照的で、K376の「明」とK377の「暗」というところでしょうか。
ヒラリー・ハーン盤を採ります。エネルギッシュで溌剌とした表現ながら、行き過ぎぬところが魅力です。抑制された明るさが光ります。
K377ヘ長調
レイチェル・ポッジャー盤を採ります。彼女のバロック・ヴァイオリンの響きは、本質的に陽性です。第2楽章アンダンテは、弾きようによっては、ずいぶんと憂愁を感じさせるのですが、彼女の場合、それはないですね。ここはまあ、善し悪しでしょう。(笑)
K380変ホ長調
さあ、このグループのラストを飾る壮麗な曲です。ここで採るべきは、やはりムターお姐さまの盤でしょう。第2楽章アンダンテ・コン・モートは、モーツァルトの悲劇の調性ト短調ですけど、それを乗り越えて、技巧に溢れた終楽章のロンドで終わります。
ここでちょっと小休止いたしましょう。(笑)
これから晩年の3曲に入るのです。ところで、この3曲が、よくモーツァルトのヴァイオリン・ソナタの中で最上のものとされますけど、みっち的偏見では、第2グループの5曲の方に佳曲が多く、必ずしもそうとは云えないと思っています。
K454変ロ長調
この曲はK378と並ぶ大人気曲です。
また、K379と同様に初演時のエピソードが伝えられておりまして、ヴァイオリン奏者(女流のレジーナ・ストリナザッキ)のためのパート譜は書きましたが、ピアノ・パートは「暗記」でした。皇帝ヨーゼフ二世がオペラ・グラスで覗くと、モーツァルトは白紙の五線譜を拡げて演奏していたという。(笑)
ここで、もう一つグリュミオーとハスキル盤を採りましょう。1958年1月録音のモノーラル盤です。もちろん、ここでもワルター・クリーンとの新盤を採れば、ずっとクリアなんですけどね。ですが、新盤ではグリュミオーのVnがロマンティックに過ぎると感じられます。旧盤の演奏には、そんな甘さはありませんから、あえて旧盤を採りましょう。
なお、この盤、みっちは廉価なセット「Clara Haskil EDITION」Deccaレーベルのものを聴いておりますが、モノーラル録音なのに、少し位相が膨れています。何か処理をした跡なんでしょうか、不思議です。
記事冒頭の画像は、インターネットで拾った、この曲の初出に近いと思われるLPレコードのジャケットです。この時代のジャケットはさすがに趣があります。いいですねぇ。
K481変ホ長調
晩年の3曲のなかでは、一番あっさりしていて、印象が薄い曲だと思います。(汗)
アリーナ・イブラギモヴァ盤を採りますが、場合によっては落としてもよい曲か、第2グループの5曲の方が、一段勝っているように聴こえてなりません。(毒)
K526イ長調
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ中で最高の曲と云われているらしいです。
まあ、みっちの意見は少し異なりますが。(笑)たいへん立派な曲であることには間違いないと思います。最後のトリは、ヒラリー・ハーン嬢にお願いいたしましょう。
むろん、そつのない演奏で、満足いたします。
最後に、今回よく参照した本をご紹介。
これなんですが、ニール・ザスロー「モーツァルト全作品事典」音楽之友社2006年刊です。The Compleat Mozart: A guide to the musical works of Wolfgang Amadeus Mozart(Neal Zaslaw 1990)の翻訳です。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの解説というと、他にあまり参考になる情報がなかったのです。まあ、この本もあまり大したことは書いてないのですけどね。(少し毒)
お世話になっておいて、なんですが、この本の問題は他にもあります。「翻訳」です。こんなに、こなれていない日本語訳は久しぶりに見ました。(毒)
誤訳のなんのという以前に、日本語になっていないのです。
まことに申し訳ないのですが、ちょっと推薦はできないですねぇ。お求めになるのなら、原書を強くお薦めいたします。
はい、これでモーツァルトの大波はおしまいです。ふぅ。
しかし、これから行く手には、更に急峻な大波がぁ。(汗)
ということで、次回はベートーヴェンの予定です。(笑)