以前にコンサート・ホールの音響のことを少し調べているので、そちらも参考にしてください。
さてルドルフィヌムだ、そもそもこの変な名前は何?これはオーストリアの皇太子ルドルフ(1858-1889)の名前を取っているんですね。オーストリアにはルドルフなんて一杯いそうですが、この場合は謎の情死事件「マイヤーリンク事件」の当事者の方であります。まあ、「情死」って何だいとか、事件の詳細はウィキペディアあたりを見て頂くとして、次へ。(笑)
また、このホールのことを「芸術家の家」Dům Umělcůと呼ぶ人もいますよね。これはどうも1885年に建てられたときはそう呼ばれていたらしい。ルドルフィヌム内には大きなドヴォルザーク・ホールと小さなスーク・ホール、それにアート・ギャラリーがあります。
ルドルフィヌムは途中で議会場になったりしましたが、1940年の改装でドヴォルザーク・ホールは本来の面目を取りもどし、またこの時着替え室を改装してスーク・ホールが出来たという話です。
ここではドヴォルザーク・ホールだけを採りあげましょう。
本記事冒頭の画像は公式ページから拝借したドヴォルザーク・ホールなんですが、一見して他のホールとは異なる独特の構造ですねぇ。
一階の平土間が三方固い壁に囲まれています。そして二階のバルコニー席の構造が突出して大きいんですよ。一体、妙な建物ではあります。
室容積は14,600m3で、ヨーロッパの古いホールとしては平均的ですが、観客席数は1100と少なめです。
なんだか、凄く響きそうなホール構造ですよね。
はい、まあこの辺りで、ひとつルドルフィヌムで録音されたCDを聴きましょう。
パウル・クレツキPaul Kletzki(1900-1973)がチェコ・フィルを指揮したベートーヴェン「交響曲全集」です。
1964-68年の録音、いわゆる「プラハの春」が1968年ですから、チェコ国内では自由を求める気運が盛り上がっていた頃ですね。
クレツキという人は、世界的にはもう忘れられかかっている指揮者だと思うけれども、日本ではまだまだ人気が高いようです。日本人好みの指揮者なんですかね。
クレツキはポーランドのウッチŁódź生まれ、ユダヤ人であったためドイツを離れ、ソ連、イタリアを経てスイスへ逃れます。この時ミラノに、彼の作曲家としての全作品を二つの金属ケースに入れて保管させていたのですが、ミラノが連合軍により爆撃を受け、全ては失われたと知らされます。
クレツキはこのため戦後作曲家としての活動を断念します。
ところが、この話には後日談があり、1965年になって建設工事現場から、なんとこの2つのケースが奇跡的に掘り出されたのです。しかし、ケースは焼けただれており、クレツキは中身が灰燼に帰したと信じて、敢えて開けようとはしませんでした。
さらに後日談があります。1973年に彼が亡くなったあと、未亡人がこのケースを開けたところ、なんと中身はすべて無事だったのです。
なんだか戦禍に翻弄された人生が気の毒ですねぇ。
この詳細は以下のチューリッヒ中央図書館のパウル・クレツキ・コレクションの文献をご覧ください。
ああっ、道草が多かった。(汗)
とにかく、クレツキ指揮チェコ・フィルの音を聴くのです。
おや、とてもクリアな音ですね。残響が多すぎるという感じは受けません。むしろスッキリ、サッパリ系の音です。隅々まで見通せる感じがいたします。それでいて潤いに欠けるというきらいはありません、良い音です。ベートーヴェンの交響曲でも、管楽器の音と弦楽器の音が混濁することがないのです。
気になると言えば、少しスケール感に豊かな響きに欠けるところですかね。これは裏腹の関係にありますから。60年代の録音では、限界があったのかもしれません。
たとえば、第9交響曲の合唱などは明らかに弱いです。もちろん録音テクニックのせいである可能性はありますが、ちょっと、みっちの好みの音とは言いがたいです。
さて、文献(記事末尾参照)にあったルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールの残響特性のグラフはこんな感じです。
ここでRTはReverberation Timeで残響時間です。EDTは Early Decay Timeでまあ同じようなものなのですが、RTの方は-5から-35dBに減衰する時間を計っているのに対し、EDTの方は0から-10dBの減衰時間を計っています。
1kHzで3.3秒くらの残響時間というのは、ヨーロッパの名ホールの中でも一番長い方じゃないでしょうか。
一口に言って、「中高音域の残響時間は非常に長い、一方低音域の残響時間は短かめである」となりますね。
そして、この特性は、ブログの過去記事で採りあげたドレスデンの聖ルカ教会の音響特性とよく似ています。
ところで、まあ録音に適しているのはよいとして、ルドルフィヌムで実際にホールで音を聴く場合、低域の量感に不足を感じたりはしないのでしょうか。
これは実際に聴いてみるしかない。
では今度、そのあたりを確かめに、ルドルフィヌムの音を聴きに行ってまいります、と簡単にいえないのが残念です。(爆)
はい、ちょっと長くなりました。今日はここまでといたします。
参考文献:ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールの音響特性については、以下のチェコ工科大学の研究者の文献を参考にしています。