再び、ヨッフムのブルックナー第5を。語り尽くされた感のある作品に、付け加えることなどあるか?(笑) |
「ヨッフムのブルックナー交響曲の一連の公演録音は、ほとんど彼の60年の経歴全体にかかっている。そして、彼の解釈者としての進化は、きわめて明快であると同時に、明確に徐々に進歩しているincrementalのだ、彼の芸術家としてのペルソナの核は、初期から現れているのだが。
評論家ハーバート・グラースは、彼を評して、常に自身の音楽に関するアイデアを挑戦的に変えていった人としている。『第5交響曲は、(ヨッフムの心を)乱れさせた。彼は、そのすべての公演を、変化途中の解釈と見なしたようだ。リハーサルにおいて、そのような疑問をもつことは、オーケストラにひどく忍耐を要求することになった、かれは演奏者に対して上品で、尊敬すべき態度ではあるのだが。』
ヨッフムのロマン派音楽すべてへのアプローチ、特にブルックナーに関してのアプローチは、深く習得された音楽の全体構造の理解と、テンポを自在に操る磨き上げられたアプローチを合わせたものであった。」
ヨッフム指揮のブルックナー第5交響曲は、以下のAからGまで7種類あります。このうちBとEは全集中の一枚で、Fだけは非正規盤です。これらを録音年代順に並べてみましょう。続いて、オケや録音場所など。A-Gの記号は共通です。
なお、この表を作成に当たっては、http://www.abruckner.com/recordings/Jochum/Eugen
の他、いくつかのサイトを参考にしています。
録音日時 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 | 第4楽章 | 計 | |
A | 1938年6月3-4日 | 21'32" | 21'31" | 12'09" | 24'15" | 79'19" |
B | 1958年2月8-15日 | 20'48" | 19'18" | 12'30" | 23'59" | 76'52" |
C | 1964年5月30-31日 | 20'54" | 18'55" | 12'41" | 23'04" | 75'54" |
D | 1969年10月22日 | 20'17" | 18'36" | 12'44" | 23'09" | 74'58" |
E | 1980年2月25日-3月3日 | 21'26" | 19'16" | 13'04" | 23'42" | 77'30" |
F | 1982年10月6日 | 21'40" | 19'58" | 13'37" | 24'35" | 79'50" |
G | 1986年12月4日 | 22'13" | 20'48" | 13'54" | 25'40" | 82'35" |
オーケストラ | 種別 | ホール | 楽譜 | |
A | ハンブルグ国立管弦楽団 | スタジオ | ハース版 | |
B | バイエルン放送交響楽団 | スタジオ | ミュンヘン、ヘラクレス・ザール | ノヴァーク版 |
C | アムステルダム・コンセルトヘボウ | ライブ | オットーボイレン、修道院 | ノヴァーク版 |
D | フランス国立管弦楽団 | ライブ | シャンゼリゼ劇場 | ノヴァーク版 |
E | シュターツカペレ・ドレスデン | スタジオ | 聖ルカ教会 | ノヴァーク版 |
F | ベルリン・フィルハーモニー | En Larmes ELS-09-747/8 | ノヴァーク版 | |
G | アムステルダム・コンセルトヘボウ | ライブ | ノヴァーク版 |
さて、どうでしょうか。録音時間を見て下さい。1938年から年を追う毎に、トータルの演奏時間が短くなっています。それも結構な違いです。
1969年のシャンゼリゼで、一番短くなります。そして、それから年を追って、今度は演奏時間が長くなり、最後の1986年ライブで最長となるのです。
もろん、演奏時間がすべてではありませんが、一面の事実を語っているのは確かかと。
みっち流の解釈:
①ヨッフムはブルックナー(特に5番)の解釈を次第に変化させていった。その歴史は、ほぼ彼の指揮者としてのキャリア全体に及ぶ。
②1958年盤(DGG盤)のライナーノートに、ヨッフム自身のノートが載っているが、上記変化から推して、それがヨッフムの解釈の全てではない。それ以降30年にわたって、再解釈が続くのだから。
③1964年と1986年の、コンセルトヘボウとのライブは、多くのブログで採り上げられることの多い、話題盤である。これらが、演奏時間からすると、ほぼ最短に近い(1964年。第4楽章は最短である)ものと、最長のもの(1986年)なのは偶然でしょうか。面白いです。
以上、ただでさえ多いブルックナー5番の記事に、さらに屋上屋を架しました。(笑)
写真は、ブルックナー5番のCDジャケットですが、ヨッフムではなくて、カール・シューリヒトの指揮した1963年VPOライブ盤です。まあ、この盤についても、世のブログで採り上げられることが多いですねぇ。
この話は、いずれまた、ということにいたしましょう。(汗)
データを提供しているサイトは多いのですが、分かりにくいので、少し整理してみたのです。
FのEn Larmes盤は非正規盤ですが、この年代のデータがどうしても欲しいので、入れてみました。