『パルジファル』の台本をちょいと真面目に考えてみる-その1 |
そもそもが、これは現実の話ではない。寓話である。そうだとしても、全体によく分からない、と言えばよく分からない話である。
モンサルバート城というのが出てくる。ここで聖杯が守られているのだという。
聖杯って、あの『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』とか『ダ・ヴィンチ・コード』で出てきた奴?
そうそれなんです。それに聖槍も。
聖槍って、十字架にかけられたイエスを突いたというあの槍ですかぁ。ロンギヌスの槍?ヒットラーが探し求めたとかいう?
しまった、ここはとんでもサイトかぁ、とこうなってくるんですが、違いますよぉ。(汗)
『タンホイザー』だって『ローエングリン』だって、あるいは『ニーベルングの指輪』だって、現実の話ではなかろう、ということになるが、『パルジファル』はこれら伝説や神話を元に作られたオペラとは、また一つかけ離れたところがありますねぇ。
もちろんオペラの楽しみ方として、話の筋はともあれ、音楽を楽しめればそれでよし、という姿勢もあり得る。例えばモーツァルトの『魔笛』なんか、音楽は素晴らしいけど、シカネーダーの台本は大疑問符、あの台本の内容を真面目に捉えている人はいないんじゃないかぁ。
『パルジファル』はそこまでは行かなくて、まだ真面目にテキストの内容を追求する気になる。そこで、パルジファルという寓話をみっち流に少し解きほぐして見よう、という試みである。
みっち的には、主要登場人物の中で、魔性の女であるクンドリーを軸に考えたいと思う。
クンドリーは魔性の女である。
どうも死すべきもの(モータル)ではないらしい。
遠い過去から、何度も転生しているようだ。その度に前生では得られなかった赦しを求めているが、いつもかなえられずに終わる。
クンドリーは十字架にかけられたイエスを笑ったことで、呪いを掛けられたようである。
その呪いの内容は、つまびらかではないが、
①いかなる男をも誘惑できる魔性の力が備わり、
②しかしそれによって彼女は真の悦びを得ることはない(彼女曰く、腕の中に新たな罪人が転がり込んでくるだけ)
③決して泣くことができない
といったようなものと思われる。
この呪いは、彼女を拒むことのできる男が現れて初めて解けるとされている。しかし、今までそのような男は一度も現れていない。いかなる男をも誘惑できる力なのだから、無理もない。呪いが解けないため、彼女は何度も転生して生きながらえている。
彼女の転生の一つは、ヘローディアスHerodias(ヘロデ王の后)であるらしい。(クリングゾルが言及している)ヘローディアスはサロメの母親で、娘が踊り(ストリップ・ダンスである-汗)の報酬に預言者ヨハネの首を所望するように、焚き付けた悪女である。
しかし、そうだとすると、当然時代は紀元前となってしまうから、十字架上のイエスを見て呪いを掛けられ云々というのと齟齬が生じる。
まぁ、ここはあまり詮索しないことにしよう。あるいはヘローディアスだった女が、後年呪いを掛けられて、クンドリーになったのかもしれない。
クリングゾルは他に、Gundryggia という名も挙げているが、これはよく典拠が分からない。
さらに、救世主(イエス)は呪いを掛けたりするものなのか?という疑問が生じる。
これは新約聖書に次のような記述が見られるので、どうも答えは是のようである。
マタイ伝21:18-20より
『朝早く町に帰る時、空腹だったイエスは、道ばたにある一本のいちじくの木を見て、その下においでになったが、その木には葉だけで何もなかったので、「これからお前はもう二度と実をつけるな!」と木におおせられた。すると、いちじくの木は、すぐに枯れてしまった。』
あっ、イエスってこんなことするんだ、という気がしますがね。自分が空腹だとは言え、実を付けていない、いちじくの木に当たってもしょうがないような。
続けて、驚く弟子たちを前にイエスは、信仰があれば、こんなことばかりでなく、山だって動かせると語ります。
この部分の解釈は色々になされている。(皆さん苦労していると見える-汗)
がともかく、こういう記述が正統に伝えられた聖書に明記されているのは事実である。
ここで、イエスは確かに呪いを掛けているようです。
さて、パルジファルは第2幕でクンドリーの呪いの力を破り、彼女の誘惑を拒絶するのだが、それはどうして可能になったのか?いかなる男をも誘惑できるのではなかったのか?
はい、今回の話は長くなりそうなので、このあたりで今日の所はおしまいにしましょう。
写真は、ドイツ・グラマフォンのDVD、Catalogue No:0730329
レヴァイン/メトの『パルジファル』(第3幕)から、マイヤー(クンドリー)とイェルサレム(パルジファル)。
演出はオットー・シェンクOtto Schenkで、台本指示にきわめて忠実な演出です。
配役:
Waltraud Meier(クンドリー)
Siegfried Jerusalem (パルジファル)
Kurt Moll (グルネマンツ)
Bernd Weikl (アムフォルタス)など
Metropolitan Opera Orchestra & Chorus, 指揮はJames Levine
収録:March, 1992