Philip Pullmanのブリキの王女解題 |
オックスフォードの植物園の話は前に書いた。
サリー・ロックハートシリーズは全部で4作。ジャンルからすると、ティーン向けの冒険小説というところか。しかし、初老あるいは本物の老人が読んでも面白い。(笑)
1.The Ruby in the Smoke
2.The Shadow in the North
3.The Tiger in the Well
ときて、四作目が
4.The Tin Princess
この4作目はいわば番外編であって、サリー・ロックハートが主人公ではない。サリーは登場するが、あくまで脇役である。
主役は第1作で行方不明になった不幸な少女アデライデ。第1作でいつの間にかいなくなって、その後音沙汰無しだから大抵の人は忘れていたと思う。(汗)
それが第4作で突然本物のプリンセスとなって登場。(大汗)
ヨーロッパの小国のプリンスに一目惚れされて、秘密結婚していたという訳。
プリンスと共に、この小国Razkavia(架空の国です)に行くが、王様が急死して、プリンスは国王になり、アデライデは女王に。
さらに戴冠式で国王が暗殺されて、女王アデライデは小国ながらこの国を指揮することになる...
そして隣国ドイツの鉄血宰相ビスマルクの陰謀が、この小国に暗い影を...
4作とも邦訳があります。私は読んでいません(汗)でもThe Tin Princessの装幀はMark Stutzmanの方がいいと思うなぁ。どうでしょうか。
以下いわゆるネタバレがありますので、未読の方でそういうことが嫌いな方は、ご注意ください。
まずThe Tin Princessの題名の由来。
このアデライデの言葉から来ています。
(時代は19世紀という設定。ヨーロッパ大陸を舞台にした鉄道レースのボードゲームを見て)
『ブリキの列車にブリキの船が大きな渦に巻き込まれる-私が何だか知ってる、ベッキー?ブリキの王女よ。チェスみたいに、私はボードを端から端まで横切って、女王に成ったんだわ。でも、やっぱりブリキ製なのよ。』
ボードゲームの駒がブリキなんですね。まだプラスチックないからなぁ。ボードゲームが何だか知らない人は、Wikiかなんかで調べてください。(汗)
アデライデのヒロイックなシーン。
かって祖国を救った英雄にならって、アデライデは国の象徴である鷲の旗を奪い、Wendelsteinの古戦場に赴く。圧倒的なドイツ兵に対して、味方はわずか6名。
そこへアデライデを裏切った老公爵が武装した制服姿で駆けつける。
女王アデライデの前に跪くと、
「『陛下』彼は慌ただしく言った。『私は間違いを犯しました。私はあなたを、そして国を裏切った。言葉では言い尽くせないほど恥じております。あなたは...あなたは、私などよりずっと優れた心をお持ちだ。あなたは本能の命じるまま正しく振舞い、私は誤った。しかし、もう二度と誤りませんぞ。信じていただきたい、陛下、私はあなたのおそばで、死んで倒れるまで戦います。私の血の一滴のこらず、残った人生の一分までもが、あなたのものです。お願いいたします、どうかお許しを、最後に私に正しくご奉公をさせてください』」
そして最後はスイスの療養所でのエンディング。
残酷で苦い結末だが、救いがないわけではない、いつものPullman流エンディングである。
写真はThe Tin Princessの表紙。女王アデライデが国王暗殺の直後、伝統の鷲の旗をポールに掲げるシーンです。イラストはMark Stutzman。