イングリッド・ヘブラーIngrid Haebler(1929-)はオーストリアのピアニストで、特にモーツァルトのピアノ曲で有名です。
さて、それで今日のお題は、彼女の使用ピアノは何か?というものです。(笑)
なお、この記事はmole(もぐら)さんのブログ記事
に触発されています。同記事のコメント欄のやりとりも参照ください。
イングリッド・ヘブラーのピアノの音色については、ネット上でざっと検索しただけでも、色々出てまいります。
外野的に面白いのは、『あれは素晴らしいスタインウェイの音だね!』というのと、『どう聴いてもベーゼンドルファーに間違いなし!』という、2派がおられることです。(笑)
まあレコード会社がライナー・ノートに使用ピアノ名を書いてくれれば、議論は生じなかったのですがね。昔はそういう習慣はなかったようです。
はい、まず最初に、みっちなりの結論を書いておきましょう。
イングリッド・ヘブラーの使用ピアノはスタインウェイだと思います。
理由は以下。
①LPレコードのジャケットにピアノと一緒に写っている写真があるが、その中にスタインウェイと確認できるものがある
②スタインウェイ社のHPに使用アーティストの一覧ページがあるが、そこに彼女の名前の記載がある
③一方ベーゼンドルファー社のHPにも使用アーティストの一覧ページがあるが、そこには彼女の名前はない
④来日公演のパンフ、あるいは海外公演(例えば1970年のコリン・ディヴィス/ボストン響とのK.537戴冠式のコンサート)のパンフでは、スタインウェイ使用となっている
ちなみに、この画像は、1989年6月7日大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスにおける、イングリッド・ヘブラーのピアノ・リサイタルからです。ご覧のとおり、ちゃんとスタインウェイを弾いておられます。この時の曲目はモーツァルトのソナタ3曲とドビュッシーだったとのこと。
さて、詮索はそれ位にしまして、何といっても、音を聴いてみましょう。(笑)
記事冒頭の画像を参照ください。イングリッド・ヘブラーのピアノで、モーツァルトのピアノ・ソナタ第16番変ロ長調K.570を聴きます。(新全集では第17番です-ああ、ややこしい)
これはPhilips原盤で、1967年9月9日録音となってますねぇ。録音場所は不明です。
比較試聴には、同世代の録音ということで、リリー・クラウスのソニー盤(1968年3月4日ニューヨークのColumbia 30th Street Studio)を比較対象に選びます。曲は同じK.570です。
録音日時は似かよっているのですが、ヘブラーの盤は国内盤で、再販期限が1992年9月26日となっているところを見ると、1990年リリースと思われます。結構古いです。
クラウスのソニー盤は©2015年の海外盤CDセットで、再マスターされていると思われます。
マスタリングの時代がずいぶん違いますが、まあ、しょうがないので、とにかく聴いてみましょう。
あのーっ、音楽性は無視で、とにかく音の評価のみです。
みっちの耳では、こうなります。
①クラウス盤の方が抜けもよく、いい音です。高音に輝きがあり、中低域もどっしりしています
②ヘブラー盤は、高音部が何かこう薄いベールでも被ったような音で、もどかしいです。また中低域が薄く、音に厚みがありません
オーディオ的には、かなりの音の差があります。なお、みっちは、CDを聴いただけでピアノのブランドの違いを当てることはできません(笑)ので、その点についてはノー・コメントといたします。ただ、リリー・クラウスもスタインウェイ・アーティストのはずですから、ピアノはスタインウェイであると思われます。
だいたい同じ箇所の周波数スペクトラムを取ってみました。
これがクラウス盤。
そして、これがヘブラー盤です。
気が付くのは、ヘブラー盤の方が、少し「レンジが広い」ことですね。(笑)
聴感上はこの「レンジが広い」ヘブラーの方がボケて聴こえ、「ナロー・レンジ」であるクラウス盤がシャープに聴こえるのです。
以上です。ここからは、おまけ。
ヘブラーのモーツァルトのピアノ・ソナタ全集は2つあり、最初のは1960年代の録音でPhilips原盤(ここで紹介したCDはこれ)、2回目は日本コロンビアDENON原盤で1986-91年録音。当然後者はデジタル録音です。
DENONの録音と聞くと、みっちは思わず腰が引けるのですが(笑)、ここにこんな記事があります。
この録音に関する日本コロンビアの内輪話なんですが、こんなことが書かれています。
『ヘブラーは自身の録音チームをコロムビアのスタッフではなく、シュトゥットガルトの録音制作会社トリトナスに一任し...』(爆)
おおっ、流石はヘブラーです。DENONの録音ではダメと見て、自分で録音制作会社を指定してきたのですね。
この話が本当だとすると、案外このDENON原盤の録音は、まともなのかもしれません。(毒)