えーっ、こういうシチュエーションを考えていただきたい。
あなたが無人島へ一人で長期間出かけるとし、数ある名曲から100曲だけの携帯を許されたとします。そこで、何を選ぶか、という問題です。まあ、ありがちな企画ですなぁ。(笑)
なぜ、こんなことを考えるかというと、やはりミニマル生活に憧れるからです。音楽なしではいられない、しかし、ひととおり聴きとおすのに何年(何十年?-呆)もかかるような何百何千枚(みっちの所有数も実数不明です-汗)ものCD群が本当に必要なのか、疑問は尽きないのです。
さあて、やってみましょう。
クラシック限定、大曲も小曲もそれぞれ1曲と数えましょう。
で、ただ曲名を挙げるだけでなく、ついでに愛聴・推奨盤も、原則1曲1枚宛書いてみようじゃないかぁ、という企画であります。
とりあえずやってみるとですね、100に絞るのは、なかなかに難事です。
これは相当削らないと、トータルで100には収まりません。
まず第1回目はベートーヴェンを選びます。
ベートーヴェンでは計24曲を選ぶことにします。ちょっと少ないのですが、これ位にしておかないと、他が足りなくなってしまいます。
まずは、交響曲。ここで6曲採ります。3番、5番、7番、9番は外せない。あと2番、4番と8番から採りたいのですが、3曲は無理なので4番を落とします。これでギリギリというところ。6番「田園」は省略です。
ピアノ協奏曲はミーハーと言われようが、素敵なアダージョを持つ第5番「皇帝」を採ります。それとヴァイオリン協奏曲。協奏曲はこの2曲だけ。
次に歌劇「フィデリオ」、これは異論あるかもしれませんが、とにかく採ります。
そうなると、あとは室内楽とピアノソナタですねぇ。
弦楽四重奏曲は、ラズモフスキー1番、第12番、第13番、第14番、第15番を採ります。特にこの後期の4曲は落とせないです。本当はラズモフスキーを全曲採りたいし、あと第16番も採りたいのですが、う~ん余裕がありません。
あとは、ピアノトリオ第5番「幽霊」と、チェロソナタ第3番イ長調を採ります。この辺りは、個人的思い入れが濃厚に入っています。
そして、ピアノソナタは、「テンペスト」「アパッショナータ」、そして後期の作品101、作品106「ハンマークラヴィーア」、作品109、作品110、作品111を採ります。これも特に後の3つは外せないです。
ここまでで、もう23曲、あと1曲。それは...
連作歌曲集「遙かなる恋人に」にいたします。
さあて、これでどうにか24曲に絞ったけど、さらに難題、愛聴・推奨盤を原則1枚宛選びます。名盤、有名盤掃いて捨てるほどあるベートーヴェンの楽曲からただ1種を選ぶのは容易ではありません。何でこんなことに苦労しなくちゃいけないのかね?
好きなだけ挙げたら、ええんじゃないのかぁ。(爆)まっ、一度決めたことですので...
ではでは、異論・反論が続出すると思いますが、まずはリストを公開します。(笑)
1:第2交響曲:バーンスタイン指揮VPO(1978年2月ムジークフェライン大ホール:ライブ)Grammophon:記事冒頭の画像はこれのジャケットです
2:第3交響曲:ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1979年聖ルカ教会)Edel
3:第5交響曲:セル指揮クリーブランド(1963年10月11,25日セヴァランスホール)Sony
4:第7交響曲:ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1975年聖ルカ教会)Edel
5:第8交響曲:バーンスタイン指揮VPO(1978年11月ムジークフェライン大ホール:ライブ)Grammophon
6:第9交響曲:カラヤン指揮BPO、ヤノヴィッツ、ベリー(1962年10月11月ベルリン・イエス・キリスト教会)Grammophon
7:歌劇「フィデリオ」:クレンペラー・コヴェントガーデン、ユリナッチ(1961年2月24日ロイヤル・オペラハウス:ライブ、モノーラル)TESTAMENT
8:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」:ポリーニ/アバドBPO(1993年1月ベルリンのフィルハーモニー:ライブ)Grammophon
9:ヴァイオリン協奏曲:ファウスト/アバド、マーラー室内管(2010年11月ボローニャのAuditorio Manzoni)Harmonia Mundi
10:弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」:ズスケ四重奏団(1967年7月ドレスデン聖ルカ教会)Edel
11:弦楽四重奏第12番作品127:ズスケ四重奏団(1978年11月ドレスデン聖ルカ教会)Edel
12:弦楽四重奏第13番作品130:リンゼイ四重奏団(2000年7月25-27日ウエントワースのHoly Trinity Church)ASV
13:弦楽四重奏第14番作品131:ズスケ四重奏団(1980年1月ドレスデン聖ルカ教会)Edel
14:弦楽四重奏第15番作品132:ズスケ四重奏団(1977年4月ドレスデン聖ルカ教会)Edel
15:ピアノ・トリオ第5番作品70-1「幽霊」:カザルス、イストミン、フックス(1953年7月8,9日プラード:モノーラル)Sony
16:チェロソナタ第3番イ長調作品69:トルトゥリエ、ハイドシェック(1971-72年パリSalle Wagram)EMI
17:ピアノソナタ第17番「テンペスト」:ハスキル(1960年9月Théâtre municipal de Vevey)
18:ピアノソナタ第23番「アパッショナータ」:ゼルキン(1962年12月8日ニューヨークのCBS 30th Street Studio)Sony
19:ピアノソナタ第28番作品101:ポリーニ(1977年1月ムジークフェライン大ホール)Grammophon
20:ピアノソナタ第29番作品106「ハンマークラヴィーア」:ポリーニ(1976年9月ミュンヘン・レジデンツのヘルクレスザール)Grammophon
21:ピアノソナタ第30番作品109:グールド(1956年6月28,29日ニューヨークのColumbia 30th Street Studio:モノーラル)Columbia
22:ピアノソナタ第31番作品110:グールド(1956年6月26,27日ニューヨークのColumbia 30th Street Studio:モノーラル)Columbia
23:ピアノソナタ第32番作品111:グールド(1956年6月20,21,25日ニューヨークのColumbia 30th Street Studio:モノーラル)Columbia
24:遙かなる恋人に:シュライアー、シフ(1994年9月ムジークフェラインのブラームス・ザール)Decca
あとは、蛇足の説明です。それにしても最新録音が少なくて、古い録音が多いなぁ。モノーラル録音も何枚か入っています。(汗)なお、みっちの場合国内盤を買うことはまれで、ほとんど海外盤です。それもあって、CD番号を書くのは省略しました。さらに最近再発のCDセット物が多く、番号自体の意味が薄れてきています。LP時代のような訳にはいきません。
1と5:第2と第8の交響曲は、バーンスタインの70年代後半のVPOライブシリーズにしました。何といっても、熱気と陶酔感ではこれが一番、一気に聴きとおしてしまいます。
2と4:第3と第7の交響曲は、おなじみシュターツカペレ・ドレスデンと聖ルカ教会でのアナログ録音です。硬質で端正な音です。これまた上記とは別の意味で陶酔します。
過去記事あり。
3:第5はセル・クリーブランドです。模範的な演奏。これでもう、ええんじゃないのかね、他に何が必要なのかね、と思わせます。(笑)そうなんですが、それでもさらに先があるんじゃないかと探索を続けるのがマニアでありまして...(爆)
オーディオ的なコメントを一つ。みっちが最近買ったのは2013年再発の24bit処理したとかいうSonyポーランド盤なんですが、大昔(20年以上前)に買ったSonyアメリカ盤全集と比べると、ずっと音が良いです。昔のLPレコードからCDに切り替わった頃のトランスファーは技術的にまだ問題があったと見ます。
6:カラヤンのベートーヴェン交響曲全集は50年代、60年代、70年代、80年代とありますが、第9に関してはこれがベスト。それに、なんといってもヤノヴィッツのソプラノ独唱が光ります。
7:フィデリオという歌劇は、前半部がどうもかったるいのですが、後半からの盛り上がりは流石です。ここはクレンペラーの熱気あふれるライブで、ユリナッチの可憐なレオノーレを聴く、レオノーレ序曲も入っているし、至福であります。
過去記事あり。
8と9:はい、協奏曲はどちらもアバドの指揮でいきましょう。ピアノの方はポリーニ、第2楽章のロマンティシズム、第3楽章の雄渾さ、満足です。
そしてヴァイオリンの方はイザベル・ファウスト、この人有名なんだろうか、すみません、みっちはあまりよく知らないのです。しかし、一聴して、その清新さに驚きました。彼女にも驚嘆したのですが、一方で晩年のアバドは続けざまに、いい仕事をしたと思います。
以下がヴァイオリン協奏曲のジャケットです。このおかっぱ頭の少女の横顔はイザベルさんではなく(笑)、もちろんグスタフ・クリムトの「ヘレネ・クリムトの肖像」(グスタフの姪らしい)です。(愉)さすがはHarmonia Mundi、このCDジャケットは凝った作りで所有する喜びがあります。
10-14:ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、正直な話、決定打がないです。困ります。(汗)ズスケの全集がまずは妥当な線か。聖ルカ教会でのアナログ録音で、音質はとても好ましいです。
ただ作品130だけはリンゼイを採ります。例のカヴァティーナの入っている曲です。『作曲者自身が、「私がかいた一番感動的な曲」とよんだ』という曲、これはベートーヴェンの同時代のヴァイオリニストKarl Holzの話からのようです。
『彼(ベートーヴェン)は実際それを作曲しながら、メランコリーの涙にくれた。(1825年夏のこと)そして、私(ホルツ)に告白するには、彼自身の音楽でそのような例があったことは今までなく、いまだにその曲のことを考えるだけで新たな涙にくれるのだと。』
リンゼイのジャケットはこれです。カヴァティーナは何と2バージョン入っています。
15:この曲はこれで決まりでしょう。泣く子も黙るカザルス、古いモノーラル録音ですが、この演奏、特に第2楽章を一聴すれば、他の凡百の演奏は色褪せます。
16:いかにもフランス流というベートーヴェン、思い詰めた感じはなく、洒落た雰囲気です。この曲には、こんな気分がふさわしい。爽やかな印象が残ります。
過去記事あり。
17-23:ベートーヴェンのピアノソナタは、最初ポリーニでいいかなぁ、と思っていたのですが、やはり個々の曲を考えると、違った考えが入ってきます。(笑)
テンペストは「非常識」にも(笑)クララ・ハスキルを採ります。ハスキルはモーツァルトしか弾けないわけではないのです。なお、テンペストの題名由来はアントン・シントラーの述懐によるものなので、信用ならぬと思われます。
アパッショナータはルドルフ・ゼルキンのてらいのない直截な表現を採ります。みっちの大昔からの愛聴盤です。
作品101とハンマークラヴィーアはポリーニにしましたが、最後の3曲はちょっとひねって、グレン・グールドです。コロンビアから出た2枚目の録音です。
過去記事あり。
24:ベートーヴェン1816年の作曲。このころベートーヴェンは健康を害し、甥の扱いに悩み、作曲はできず、耳はさらに悪化して筆談となり、ウィーンの人からは、ベートーヴェンはもうダメになったと噂される。1812年あたりの絶頂期(「不滅の恋人」への恋文を書いた頃)から、まさかの奈落に落ち込んでいた時期です。(さらにその後の不屈の復活については言うまでもありませんが)
連作歌曲集「遙かなる恋人に」An die ferne Geliebteは、この最悪の時期に作られた曲です。作詞したのは素人の学生ですから、歌詞はいかにも拙い。しかし、ベートーヴェンの曲は、何ともいえぬ滋味溢れます。
このペーター・シュライアーが歌ったDecca盤ですが、最後の第6曲のラスト、『was ein liebend Herz geweiht.』神聖なる愛する心よ、のところがギョッとするほど強く歌われ、思わず姿勢を正します。(笑)ああっ、流石シュライアーはベートーヴェンのことをよく分かっていると思います。なお、オーディオ的なコメントとして、シフのピアノはベーゼンドルファーであるとの記載があります。
以上「ベートーヴェンの巻」終了