さて、前回NAXOS盤「大地の歌」を聴いて、『第6楽章だけ、何故かスクラッチ・ノイズが多いです。ここでいうスクラッチ・ノイズとは、レコード面の傷に起因するパチパチ、ブツブツ音です。』と書きました。
レコード盤は一定速度で回転していますから、スクラッチ音が明確なら、この周期を測れば、逆に回転数を求められます。
(すでにsolarisさんが測定されて、結果をブログに書かれています。流石です)
さて、その結果は...なんと、33rpmでした。(正確には33 1/3rpmですが、面倒なので以下33rpmと書きます)
あれ、NAXOS盤のリーフレットには、『このディスクの音源は、放送を78rpmアセテート盤に、個人が録音したものである。』となってたのにぃ。
もう一度、NYPのCDセットのリーフレットに戻って、再読してみます。これは前々回の掲載記事です。
『とても残念なことに、1948年から1962年にかけての公演記録は、放送元であるCBS networkでは保管していなかったのである。...そこで「大地の歌」については、Voice of Americaのラッカー盤で第1、4、6楽章を、残りの楽章については、個人が放送を録音したラッカー盤のセットを使用した。』
ふむふむ。
それでVoice of Americaって、一体何さ?とこうくる。
Voice of America(以下VoA)は放送局です、アメリカ政府自前の放送局。もともと、アメリカの敵国に対する宣伝放送・プロパガンダのために、作られたもの。第二次大戦中は、ドイツ・日本に対するプロパガンダだったし、戦後の冷戦時代には、ソ連を始めとする共産圏が対象です。
そのVoAが、何で「大地の歌」のラッカー盤を?
まあ、プロパガンダの一環で、音楽番組も必要だったのでしょう。
The New York Public Libraryにある、VoAのコレクションを見てみます。
『(VoAは)アメリカ政府が1941年に戦争情報局the Office of War Informationの一部門として設立した放送組織である。VoAは米国内の民間ラジオ局のラジオ・プログラムを録音し、それらをヨーロッパで再放送した。このコレクションには、VoA放送局で再放送するために準備された非常に広範囲の音楽プログラムが含まれている。』
なるほどねぇ。
そして、このVoAのアーカイブは、どんなディスクに記録されているかというと...
『アナログ33 1/3 rpm、アルミニウム下地にアセテート、16インチ』
おおっ、なんと40cm(16インチ)ディスクに33rpmで記録されていたのです!
(これも、solarisさんがそのブログで見抜かれています。慧眼です)
みっち注:なお上記リンクの場所には、残念ながら「大地の歌」の記録はありません。
そうか、VoAは本来の放送の再録音で、別にそれほど高音質を要するわけでもない。よって演奏時間の長い40cmディスクに33rpmだったんですね。
第1、4、6楽章しかなかったのも分かる。初めから抜粋だったのでしょう。
これで、どうやら謎は解けたようです。
この1948年1月18日公演ワルター「大地の歌」の、NYPのCDセット盤(そしてNAXOS盤)の音源は、以下のようであったと推定します。
コルト氏は、おそらく全楽章を録音したのでしょうが、より音質の良かったVoAのラッカー盤を優先し、足りない部分(2、3、5楽章)のみをコルト氏のコレクションで埋めた、とこう考えるわけです。
以上で4回に渡って掲載した、「大地の歌」音源の探索の旅はお終いです。