ウィリアム・ブレイクの詩を訳してみる-今回はThe Human AbstractとThe Divine Imageと、えーっと(何) |
始めにこちらをご覧頂くと、ご理解頂きやすいかと。
『[1]対訳 ブレイク詩集ーイギリス詩人選〈4〉/ウィリアム ブレイク、松島正一(編)』
『[2]対訳 ブレイク詩集ーイギリス詩人選〈4〉/ウィリアム ブレイク、松島正一(編)』
で、みっちなりの訳は以下のとおりです。拙きコメントも付加しております。ご笑覧を。(笑)
The Human Abstract
人の抽象あるいは要約
01:Pity would be no more,
02:If we did not make somebody Poor;
03:And Mercy no more could be,
04:If all were as happy as we;
同情はもはや要らない
我らが貧しい者を作らねば
そして慈悲もまた要らないだろう
我ら全ての人が幸せならば
05:And mutual fear brings peace,
06:Till the selfish loves increase;
07:Then Cruelty knits a snare,
08:And spreads his baits with care.
そして互いを恐怖することで平和が生まれ
自己中心の愛が高まっていく
そこへ残酷が罠の網を編み
そしておとりの餌を注意深く拡げていくのだ
09:He sits down with holy fears,
10:And waters the ground with tears;
11:Then Humility takes its root
12:Underneath his foot.
残酷は聖なる恐怖と共に腰を下ろし
そして涙で地面に水をやる
すると謙虚が根をはる
残酷の足下に
13:Soon spreads the dismal shade
14:Of Mystery over his head;
15:And the Caterpillar and Fly
16:Feed on the Mystery.
やがて陰気な影が広がる
神の神秘の影が残酷の頭上に
そして毛虫とハエが
神の神秘を食い物にする
17:And it bears the fruit of Deceit,
18:Ruddy and sweet to eat;
19:And the Raven his nest has made
20:In its thickest shade.
そして残酷は欺瞞の実を付ける
赤々として、食すれば甘い
そしてカラスが巣を結ぶ
その最も奥深い闇に
21:The Gods of the earth and sea,
22:Sought through Nature to find this Tree,
23:But their search was all in vain;
24:There grows one in the Human Brain.
地と海の神々は
この木を見つけんと自然界を探し求めた
しかし彼らの探索は無為に終わった
残酷の木は人の頭の中に育つのだ
みっち的解釈(今回はやや踏み込んだ訳としています)
表題:Abstractは抽象と要約の両義なので、ちょっとくどいが、こういう表題にしました。
07:Crueltyを「残酷」と訳し、以下この「残酷」が木を形作って、はびこると解しています。
09:ですから、このHeを「残酷」と取ります。
12:このhis footも「残酷の足下」と取ります。
14:Mysteryは「神秘」ですが、ここでは宗教(キリスト教)の象徴と取ります。
15:ですから、毛虫・ハエは聖職者です。
19:Ravenは「カラス」、死の象徴です。宗教の深部に死の概念があるのは、不思議ではありません。
22:このtree「木」を「残酷」の木と取ります。残酷の木は、謙虚を根とし、恐怖の涙で育ち、宗教の傘(葉)で覆われ、欺瞞の実を付けます。そして、その深部には死があるのです。
The Divine Image
神性の姿
01:To Mercy, Pity, Peace, and Love
02:All pray in their distress;
03:And to these virtues of delight
04:Return their thankfulness.
慈悲・憐憫・平和と愛へ
悩んだ時人はみな祈る
そしてこれら喜びの徳のそれぞれへ
人の感謝が帰ってくる
05:For Mercy, Pity, Peace, and Love
06:Is God, our father dear,
07:And Mercy, Pity, Peace, and Love
08:Is Man, his child and care.
なぜなら慈悲・憐憫・平和と愛は
我が親しき父なる神である
そして慈悲・憐憫・平和と愛は
その子にして悩ましき人間でもある
09:For Mercy has a human heart,
10:Pity a human face,
11:And Love, the human form divine,
12:And Peace, the human dress.
なぜなら慈悲は人のハートを持ち
憐憫は人の顔を
そして愛は、人の形をした神性を
そして平和は、人の衣裳を持つ
13:Then every man, of every clime,
14:That prays in his distress,
15:Prays to the human form divine,
16:Love, Mercy, Pity, Peace.
それ故、あらゆる国のあらゆる人は
悩んだ時祈りを捧げる
人の形の神性へ祈る
愛・慈悲・憐憫そして平和へと
17:And all must love the human form,
18:In heathen, Turk, or Jew;
19:Where Mercy, Love, and Pity dwell
20:There God is dwelling too.
そして全ての人は人の形を愛さねば
異教徒、トルコ人、あるいはユダヤ人を
慈悲・愛と憐憫が住まうところ
そこに神もまた住まうのだ
みっち的解釈
全体:この詩は、The Human Abstractと相反する内容と取られているようですが、みっち的には、さほどの差はなく、キリスト教のオーソドックスな教義と少し距離をおいたところに、はっきりとした意思の表示があり、やはり同じ思想のドメイン内にあると思います。
01:「慈悲・憐憫・平和と愛」これが一続きの概念として使われます。これらを「神」の属性と取るのが普通でしょうが、ちょっとブレイクの概念は、アン・オーソドックスです。後を読むと、それが明らかになってきます。
03:these virtuesは言うまでもなく、「慈悲・憐憫・平和と愛」のこと
08:「慈悲・憐憫・平和と愛」が神のこと(06行)と来たすぐ後に、「慈悲・憐憫・平和と愛」は人でもある、とこう来ます。アン・オーソドックスですねぇ。(汗)これは異端じゃあないでしょうか。
09-12:人のハート、その顔、その形、その衣裳が「慈悲・憐憫・愛と平和」であると言い切ります。ここで愛と平和の順序が入れ替わったことに注意する必要があります。もちろん意図的なものでしょう。
15-16:祈りを捧げる対象が、神ではなく、人の形の神性(愛)になっていますね。そしてまた、「愛・慈悲・憐憫そして平和」順序が変わり、愛が先頭に来ます。
19:「慈悲・愛そして憐憫」と順序がまた変わり、平和は抜けてしまった。これはでも修辞的な都合だと思いますがね。
以下は、先ほどのThe Divine Imageと、ものすごく題名が紛らわしいのですが、やはりブレイクの真作です。
ただ、生前は発表されていません。ブレイクが亡くなった後の出版で、それもある種の版にのみ載ったもののようです。
形式的には、上の2つの詩と、特にThe Divine Imageとは、とても近いのですが、内容的には、かなり隔たりがあると思います。
A Divine Image
ある神性の姿
01:Cruelty has a human heart,
02:And Jealousy a human face;
03:Terror the human form divine,
04:And secrecy the human dress.
05:The human dress is forged iron,
06:The human form a fiery forge,
07:The human face a furnace seal'd,
08:The human heart its hungry gorge.
残酷は人のハートを持ち
そして嫉妬は人の顔を
恐怖は人の形の神性を
そして秘密は人の衣裳を持つ
人の衣裳は鍛えられた鉄
人の形は火のついた鍛冶場
人の顔は密閉された炉
人のハートは空腹の胃袋
みっち的解釈
01-04:The Divine Imageの09-12行と、まったく同じ構成ながら、内容は正反対となっています。例えば「愛」が「恐怖」に変わっています。
05-08:人が、とにかく、燃え立つような、激情に満ちた、動的存在として描かれているのが新鮮です。ただ、何かを訴えかけるには、全体にもう少し言葉が足りない感じですね。
以上です。写真は、すべてWikipediaから採っております。
そして、それにもまして(嬉)なのは、、「A Divine Image」!
なんなんですか、「亡くなった後の出版で、それもある種の版にのみ」って!
いったい、どこで、そんなものを…(笑)
取得場所、もしくは元々あったところなど、ぜひ伺いたいです!
それと、、「A Divine Image」私も挑戦してもいいですか?
もちろん、こちらの記事はリンクさせていただきますね。
まず、詩そのものはWikipediaにありますので、どうかご挑戦を。(笑)
http://en.wikipedia.org/wiki/A_Divine_Image
それで、この詩は、"Songs of Innocence and of Experience"の写本Copy BBにのみ載っているそうです。(ブレイクのアーカイブに行けば分かりますが、Songsの写本はものすごく沢山あります)
で、別のソースに依ると、『1830年に、Songsのモノクロームのコピー(Copy BB)が「ブレイクの幻想」Blake's Phantasies"という簡単な表題の下に、2シリングで86ロット売られた』とあります。
現在Copy BBは個人所蔵private collectionとなっているようで、ネット上にイメージは見つかりませんでした。
このソースの出典です。
http://siteslab.unc.edu/viscomi/Myth_Commissioned_Illuminated_Books/
岩波の文庫にも「従来、ブレイクのテキストとして最も信頼されていたアードマン版ではなく、テイト・ギャラリー版を底本をした」と書いてあって、版によっていろいろあるんだなぁって知ったところだったんですけど、、
生前、まったく評価されていなかったブレイクの詩は、色々な人の手を通して、ギリギリ、現在に伝わっているんでしょう。
http://siteslab.unc.edu/viscomi/Myth_Commissioned_Illuminated_Books/
上記ページ、私の英語力では、読むのに一週間以上かかりそうなぐらい長くて、全然読めていませんが、作品ごとにイラストが掲載されていて綺麗ですね。
"A Divine Image"の由来について、まだ何もわかっていませんが、
これに関しては、直感的な感じでチャレンジしてみまーーす。
ブレイクは、産業革命まっただ中のロンドンにあって、あからさまな政治批判はせず、喩え・寓意に満ちた難解な詩で、曖昧にしてはいますが、実際は相当過激な思想の持ち主だったと思います。
みっちも散文中心の人なのですが、声に出して読んでみると、英語の詩の押韻の効果がよく分かって愉しいです。
"The Divine Image"でも、"Mercy, Pity, Peace, and Love"が3回続いた後、LoveとPeaceの順序が入れ替わり、最後にLoveが先頭に来て、これこそ「人の姿」「神性そのもの」と歌われる辺りは、流石だと思います。
ただ音読する時は、人の迷惑にならないように気を付ける必要がありますが。(汗)