完訳!ウイリアム・ブレイク『無垢の予兆』の続きですぅ。 |
H25年6月22日改訂版
WikipediaのAuguries of Innocenceが不完全であった(2行抜けがあった)ことと、そのパラグラフ区切りが全く信用ならないことが判明したので、改訂版をリリースします。2行の抜けを補い、パラグラフ区切りは、みっちが自分で判断しています。
Auguries of Innocence by William Blake
無垢の予兆 ウイリアム・ブレイク作 (みっち訳)
85: He who mocks the infant's faith
86: Shall be mock'd in age and death.
87: He who shall teach the child to doubt
88: The rotting grave shall ne'er get out.
幼児の信仰を弄ぶ者は、
加齢と死に弄ばれる
子供に疑いを教える者は、
腐った墓から逃れられない
89: He who respects the infant's faith
90: Triumphs over hell and death.
91: The child's toys and the old man's reasons
92: Are the fruits of the two seasons.
幼児の信仰を尊ぶ者は、
地獄と死に打ち勝つ
子供のおもちゃと老人にとっての動機は、
二つの季節にわたる果実である
93: The questioner, who sits so sly,
94: Shall never know how to reply.
95: He who replies to words of doubt
96: Doth put the light of knowledge out.
座って、ずる賢く質問ばかりする者は、
決して答え方を知ることはない
疑問の言葉に答える者は、
知恵の光を放つのだ
97: The strongest poison ever known
98: Came from Caesar's laurel crown.
99: Nought can deform the human race
100: Like to the armour's iron brace.
知られる限りの最強の毒は、
シーザーの月桂冠から得られる
人間の形を変えるもので、
鎧の鉄ブレースほど醜いものはない
101: When gold and gems adorn the plow,
102: eaceful arts shall envy bow.
金や宝石が鋤を飾るなら、
弓は平和の道具を羨むだろう
103: A riddle, or the cricket's cry,
104: Is to doubt a fit reply.
105: The emmet's inch and eagle's mile
106: Make lame philosophy to smile.
謎々すなわち、コオロギの鳴き声は、
至当な答えに疑問を抱かせる
アリのインチと鷲のマイルは
へたな哲学を微笑ませる
107: He who doubts from what he sees
108: Will ne'er believe, do what you please.
109: If the sun and moon should doubt,
110: They'd immediately go out.
自分の見たものを疑う輩は、
決して神を信じない、好きにするがよい
太陽や月がもしも疑うなら、
たちどころにそれらは消え去る
111: To be in a passion you good may do,
112: But no good if a passion is in you.
113: The whore and gambler, by the state
114: Licensed, build that nation's fate.
情愛が二人にあるなら、何をするのも良かろう
情愛が自分の中にしかないなら、それは良ろしくない
娼婦と賭博師が、国により
免許を受けるようでは、国の運命は決まる
115: The harlot's cry from street to street
116: Shall weave old England's winding-sheet.
117: The winner's shout, the loser's curse,
118: Dance before dead England's hearse.
通りから通りへの売春婦の叫びが、
古き英国の屍体を包む布を織る
勝者は叫び、敗者は呪う
死せる英国の墓前にて踊れ
119: Every night and every morn
120: Some to misery are born,
121: Every morn and every night
122: Some are born to sweet delight.
ありとあらゆる夜と朝に、
ある者は悲嘆の中に生まれ
ありとあらゆる朝と夜に、
ある者は甘味なる喜びに生まれる
123: Some are born to sweet delight,
124: Some are born to endless night.
ある者は甘味なる喜びに生まれ、
ある者は終わりなき夜に生まれる
125: We are led to believe a lie
126: When we see not thro' the eye,
127: Which was born in a night to perish in a night,
128: When the soul slept in beams of light.
我らは嘘を信じるように導かれる、
目を通して見るのでなければ
嘘は夜に生まれ、夜の内に死ぬ、
魂が光の束の中で眠るならば
129: God appears, and God is light,
130: To those poor souls who dwell in night;
131: But does a human form display
132: To those who dwell in realms of day.
神は現われ、神は光となる
夜の闇に住む貧しき魂に対しては
だが神は、人の姿にて現れる
日の光の王国に住む者に対しては
はい、以上です。
例によって、自分用のメモ。
91-92行:果実を賞味できる期間は普通1シーズン。それが2シーズンに渡るのは、素晴らしいこと、と読みました。
103-104行:謎々とかコオロギとか、まだなにか隠れた意味がありそうですが、突き止められません。(汗)
111-112行:ここは男女の性愛のことを指していると思います。
117-118行:英語は明確だが、具体的にどのような事象を指しているのかは、分からない。社会の風潮を嘆いているのは間違いない。
119-124行:このあたり、特に素晴らしいと思います。流石だなぁ。(嬉)
127-128行:127行のwhichは、うそlieのことと、解しています。
最後に、標題のAuguries of Innocence「無垢の予兆」の解題です。
auguryは「予兆」「前兆」「オーメン」ですねぇ。
prophecy「予言」とか、oracle「神託」とか、aphorism「警句、金言、格言」などにも近い。
innocenceはぁ?「無垢」なんですが、これは「経験がない」と同義です。人間は、エデンの園を出て久しいので(汗)、もう色々と経験を積み、「無垢」ではありません。そういう手練の経験者ばかりの世間で、どう人間本来の純粋性を追求していくか、それがこの「無垢の予兆」なのだと思います。
ということで、珍しく、詩歌の世界に首を突っ込んでみました。詩文に縁のない、みっちにとっては、少し敷居が高かったか?とりあえず、今回で終了と致します。
関連記事:
『みっち、ウイリアム・ブレイクの『無垢の予兆』Auguries of Innocenceを読むの巻。とても愉しいのです』
写真は、テイト・ギャラリーTate Gallery『ウイリアム・ブレイク展』をやった時に、購入した絵葉書から。
『哀しみ』ですね。
この彩飾版画が、実にデリケートで、繊細な出来だったのを、覚えています。