『自分が救世主だと思う?』Do you think you are the One? |
関心のある分野は色々あるが、今日はデルファイ(デルポイとも書く)Delphiの神託のことを書いてみたい。オラクルOracleである。
有名なデータベース会社のことではない。神託である。本来は神託を告げる巫女さんのことなのだが、神託そのものをオラクルと呼ぶこともある。
はいはい、映画『マトリックス』(1999年)Matrixでも、オラクル出てきましたよねぇ。
モーフィアスがネオをオラクルのところまで、連れて行きます。オラクル(演じるのは、グロリア・フォスターGloria Foster)は、何ということはない普通のおばさんで、台所でクッキーを焼いている。
『自分が救世主だと思う?』Do you think you are the One?
『正直なところ、分かりません』Honestly, I don't know.
『あれがどういう意味か知ってる?』You know what that means?
そして、その台所の戸口の上に、金言がぁ。
ラテン語で、"Temet Nosce"『汝、自身を知れ』と。
なんで、ラテン語なんだろう、とちょいと気になりますね。
これオリジナルはギリシャ語です。
そもそもが、デルファイのアポロン神殿Temple of Apolloの内陣前廊(プロナオス)に書かれておったと、こうなっております。
出典はですね、ギリシャの遺跡探訪には欠かせない、パウサニウスPausaniasの『ギリシャ案内記』。これは古代の(紀元2世紀)旅行案内ガイドブックという感じの本です。きわめて有用で、この手の詮索には、欠かせませんなぁ。
さて、その第10巻第24章に、この金言のことが書かれている。
それによると、7人の賢人がデルファイにやってきて、この有名な格言を奉納した、となっており、格言は2つ挙げられています。
1.『汝、自身を知れ』(グノーテイ・サウトン)
2.『度を過ごすなかれ』(メーデン・アガン)
もう一つ、重要な文献はプラトンPlatoです。彼は紀元前5世紀から4世紀の人ですが、この格言について、2つの本の中で触れています。
まず、『プロタゴラス』 Protagoras。
この343Bで、7人の賢人が『ともに相会してデルポイの神殿におもむき、かの万人の口に膾炙している「汝みずからを知れ」「分を超えるなかれ」という句を書きしるし、もってこれを彼らの知恵の初物としてアポロンに奉納しているのであります。』
パウサニウスとプラトンの間は600年ほど空いているけれど、パウサニウスはプラトンのこの『プロタゴラス』を読んでいるか、あるいは聞いて知っています。というのは、7賢人の内訳が、プラトンのそれと異なっており、それを言及しているからです。
ところが、プラトンの著作の中で、もう一つ『カルミデス』Charmidesというのが、あるんですが、この164Eから165に、『なんじみずからを知れ』の銘文の話が出た後、『それより後の時代の銘文、「度をすごすなかれ」や「抵当の近くに身の破滅」の奉納者たち』となっている。
ははぁ、してみると、格言は3つあったか、とこうなるわけ。
3.『抵当の近くに身の破滅』
なお、デルファイの遺跡の考古学的発見では、この格言の碑文は発見されていない。よって、どうも以上3件の文献だけが頼りのようです。
ここで、みっちの大疑問。
A.パウサニウスは実際にデルファイに行って実物を見ていると思われるが、なぜ2つの格言しか、言及しなかったのか?3つ目には気づかなかった?それともその時は2つしかなかったからか?
B.プラトン自身も、プロタゴラスでは、なぜ3つめの格言のことに言及しなかったのか?
C.3つめの格言は本当に存在したか?また、逆に格言は3つだけだったのか、もっと沢山あった可能性は?だって、7人の賢人が相談して、1つ2つの格言を奉納するって、ちょいと変じゃないですか。
D.なんか3番目の格言は、やけに俗っぽいんだけど、これでいいの?(笑)
はいっ、とりあえず今日はここまで。
写真は、映画『マトリックス』から。ネオが『汝、自身を知れ』を見上げています。(笑)